広島国際映画祭2024 レポート 3 |「ポジティブな力を持つ作品」が集まり盛り上がったイベントのフィナーレ

イベント

広島国際映画祭2024 レポート

1日目 | 2日目 | 3日目

2024年11月22日より3日間にわたり、広島で映画イベント『広島国際映画祭2024』が行われました。

2009年に広島で開催された「ダマー映画祭 in ヒロシマ」を前進として誕生したこの映画祭。「平和都市」広島という地で行われることもあり、「ポジティブな力を持つ作品を、世界から集めた映画祭。」というコンセプトにて毎年開催されており、昨年は15周年という節目の時を迎えました。

今回は3日それぞれのトピックスを日毎のコラムにによりできる限りお届け、第三回は最終日24日、閉会式の模様とともにこの日上映された、広島にゆかりのある映画人及び広島で撮影された新旧映像作品の上映プログラム「ヒロシマEYE」の上映・トークイベントの様子を中心にレポートします。

ヒロシマEYE『私を描いて』上映

ゲスト:喜安浩平監督

この日のレポート第一弾 は、喜安浩平監督によるショートフィルム『私を描いて』。不運にも交通機関の都合により、喜安監督自身がトークショーに間に合わないというハプニングが発生。しかしそこは機転を利かせ、移動中の交通機関より携帯電話でこの日集まった観覧車に声を届けるという離れワザでお客を沸かせます。そしてなんとかトークショーの時間中に到着、喜安監督は大きな拍手で会場に迎えられました。

短編映画の制作を目的とした「講談社シネマクリエイターズラボ」プロジェクトへ応募した喜安監督の脚本が、1000作品以上の中から選ばれたことでスタートした本作の製作。この応募の動機は、コロナ禍の只中にいた際に「誰にも頼まれない仕事をする」というクリエイターとしての思いだったと振り返ります。

またこれまで脚本・演出家として活躍してきた喜安監督は、今回初めて映画作りという経験を得たことで「苦労した中でも学びが多く、自分が俳優や脚本家をしていた時に言葉をくれた監督の気持ちが分かった気ような気がします」と感慨深く語っていました。

ちなみに喜安監督は広島の大学で学生時代を過ごした経歴もあり、広島に非常につながりのある方でもあります。

【作品情報】

2024年製作(日本映画)/20分

原作・監督・脚本:喜安浩平

出演:小林桃子、滝澤エリカほか

【あらすじ・概要】

同級生や教師をモチーフにした漫画を発表、作品は高い評価を得たが学校では批判に叩かれ孤立した少女、こより。

そんな彼女に、学校一の“完璧”な優等生・桐子が声をかけてきた。「あの漫画、最高でした」
人がたくさん死に、傷つけてしまった漫画なのに、どうしてと疑問を持つこより。

しかし桐子の「私を描いて」という言葉から彼女に注目していたこよりは、彼女の誰にも見せていない顔に次第に気がついていく。

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ヒロシマEYE『寝てみること』上映

ゲスト:迫田公介監督、川西幸一(ユニコーン)、原かおり、多田羅郁恵

最終日の「ヒロシマEYE」作品、二作目は迫田公介監督による短編映画『寝てみること』。広島、特に呉地区では人気の迫田監督、川西の登壇ということもあり、会場はオープン前から長い列が出来立ち見まで出るという盛況ぶり。

役者へのチャレンジは初めてだったと語る川西。しかし迫田監督はその素養に光るものを見出したといいます。その一端が見えたのは、役作りために監督が行ったワークショップの席でのこと。監督は通常このワークショップにて行う役作りを「役を演じる人自身に、その役の背景、性質を考えてもらう」という手法にて行っており、その中で川西はそのイメージをとめどなく出し続けていたと、その発想力に驚いていたと振り返ります。

川西は初の俳優経験に苦労しながらも、「コンサートでも、スタッフ全員が面白いと思わないと面白いものは出来ないですよね」とユニコーンのツアーにおけるメンバー、スタッフの平等性を引き合いに出して、撮影の場の雰囲気を同様に感じたことを回想。

その一方で自身が今回の経験である意味役者づいてしまったことに対して「普段、映画なんかを見ても、物語に入っていけなくなっちゃったんです…」と新たな悩みを告白、会場の笑いを誘います。

一方で「地味だけどしっかりしたいい映画になりました。生きているといろいろと辛いこともありますが、その中で『空を見る時間』があるといいなと思いこの作品を作りました。皆さんもそんなことを想った時、この映画を思い出してくれたらと思います」と自身の作品に込めた思いを語る迫田監督。

「空を見る」ことがテーマの作品であるだけに、撮影のカギとなったのは天候。予定していた撮影タイミングの天候に不安もあったため、事前に転向に対応した複数パターンの脚本を用意するなど、短期間で多くの労力を注ぎ作品を作り上げていたことを明かしていました。

(C)寝てみることパートナーズ

【作品情報】

2024年製作(日本映画)/20分

監督・脚本:迫田公介

出演:坂本いろは、川西幸一、原かおり、多田羅郁恵

【あらすじ】

中学生の千菜は、受験生。祖母が脳出血で入院してしまい、毎日のように見舞いに行くが病室で受験勉強をしているだけだった。
ある日、病室にある祖母の手帳を見てしまい祖母の気持ちを感じとる千菜は、一つの行動に出る。

ヒロシマEYE『そして、優子II』上映

ゲスト:佐藤竜憲監督、瀬戸みちる、豊田崇史、野辺富三、虎太郎、江藤あや、新宅康弘、森本のぶ、ドロンズ石本、冲正人(司会)

「ヒロシマEYE」のラストを飾ったのは、佐藤竜憲監督による長編映画『そして、優子II』。作品の先行上映は静岡県・沼津で行われますが、主演の瀬戸とメインキャストの一人である柳憂怜(やなぎ ゆうれい)、そして出演を果たしているドロンズ石本が広島出身であることから、広島ともつながりを持った作品であります。ちなみにこの日は佐藤監督がカープデザインのコート、司会を務めた沖が背番号52「小園海斗」のユニホームを着用して登壇し、会場を沸かせます。

わきあいあいとした雰囲気を醸し会場を和ませた登壇者の面々。一方で佐藤監督は本作について「普通とはなにか」を問うことがテーマであるとコメントしながら「映画を撮ったからといって答えが出たわけではありません。白黒をはっきり付けなくてもいい、『グレーゾーンの美学』ともいうべきものを伝えたかったのかもしれません」とそのテーマに対する自身の真摯な思いを吐露していました。

【作品情報】

2024年製作(日本・台湾合作)/114分

監督・脚本:佐藤竜憲

出演:瀬戸みちる、柳憂怜、大川 航、武田幸三、沖正人、品田誠、豊田崇史、河野智典、遠山景織子、和田光沙、大島葉子、野辺 富三、江藤 あや、北山 喜一、ドロンズ石本、渡辺哲

【あらすじ】

とある小さな田舎町の父子家庭で育った女子高生の優子。 彼女は、何か決断をすることが大の苦手で「普通」を彼女にとって一番心地良く思っていた。父親は男手ひとつで、一般家庭と同じように優子のことを大事に育ててきた。 しかし、同時にヤクザを生業にしているという「普通ではない」顔を持っていた。

そして父親の取り巻きの組員たち。 娘を溺愛していたり、いい歳して大学受験に挑んだり、 親の介護に苦しんでいたりと、どこか憎めないヤクザばかり。 彼らも優子に対して常に優しかった。しかしヤクザ稼業は、時代と需要が遠のいてしまい シノギが大幅に減少、組は存続の危機に陥っていた。

そしてクラスメイトや世間に対して、若干後ろめたい気持ちがありつつも、 それなりに楽しく毎日を過ごしていた優子だったが、 ほんの些細な出来事の連鎖によって、少しずつ彼女の「普通」が崩れはじめる。

閉会式

三日にわたり行われた映画祭もいよいよラストを迎え、ノミネート作品6作品で競う国際短編映画コンペティションの受賞者が発表されました。

観客賞は『さよならを決めた日』の北畑龍一監督。その喜びを「観客に支持されていると分かるこの賞が一番欲しかったんです」と嬉しそうに語ります。続いて審査員特別賞は『ゴースト・ララバイ』のイ・ジヒョン監督。「ダマー映画祭 in ヒロシマ」でも受賞の経験があるイ監督は「今回も受賞できたことが嬉しい。また次も選ばれるよう頑張ります」と喜びの表情を見せます。そしてヒロシマ・グランプリは『囲碁教室』のロジャー・シュエ監督に贈られました。ロジャー監督は「今回の受賞は奇跡。賞がもらえるとは思えなかった」と語りました。

また閉会宣言は、不在の部谷代表に替わり広島出身の森ガキ侑大監督が実施。ボランティアを含めた映画祭に携わるスタッフ一同への感謝の気持ちをあらわして、映画祭は幕を下ろしました。

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その他のイベント

またこの日はほかに「ヒロシマEYE」作品として、広島出身の森ガキ侑大監督による『愛に乱暴』特別招待作品としてタレントのMEGUMIがプロデュースを行なった『LAYER』同じく特別招待作品として橋口亮輔監督が手掛けた『お母さんが一緒』が上映され、合わせて監督、プロデューサーが登壇し貴重なトークを披露しました。

(C)2013 吉田修一/新潮社 (C)2024 「愛に乱暴」製作委員会

【『愛に乱暴』作品情報】

2024年製作(日本映画)/105分

監督・脚本:森ガキ侑大

脚本:山﨑佐保子、鈴木史子

原作:吉田修一

出演:江口のりこ、小泉孝太郎、馬場ふみか、水間ロン、青木柚、斉藤陽一郎、梅沢昌代、西本竜樹、堀井新太、岩瀬亮、風吹ジュンほか

【あらすじ】

初瀬桃子は夫・真守とともに、真守の実家の敷地内に建つ離れの家で暮らしている。

義母・照子から受けるストレスや夫の無関心に悩みながらも、桃子はそれから逃げるように、石鹸教室の講師やセンスある装い、手まをかけた料理といった“丁寧な暮らし”に努めていた。

そんな中、近隣のゴミ捨て場での不審火、愛猫の行方不明、匿名による不気味な不倫通達アカウント表示など、不審な事件が続き桃子の日常に異変が少しずつ現れはじめるのだった…。


『LAYER』作品情報】

2024年製作(日本映画)/11分

演出・脚本:内山 拓也

企画・プロデュース:MEGUMI

出演:木村 皐誠、野澤しおり、石田結彩、有田麗未、池田優才、矢崎希菜、佐藤伶音、田文翔、MANU、(以下友情出演)田中爽一郎、tosHico、KOMAKi、大田尚央子、タキナミタカヒロ

【あらすじ】

高台に建つ家に暮らすカメラマンと画家の夫婦。夫は写真を撮り、妻は絵を描く。

授かった娘は成長していくが、二人はなぜか子どもの姿のまま。やがて娘は成人し、夫婦のもとを巣立っていく。

年老いてもなおシャッターを押し、筆をとる夫婦。気づけば家の中は作品で溢れ、豊かな色彩に彩られた家は、まるで夫婦の人生を表すようだった。

二人の命が尽きた後のその家は、娘によって新たな記憶が積み重なっていく。


(C)松竹ブロードキャスティング

【『お母さんが一緒』作品情報】

2024年製作(日本映画)/106分

監督・脚本:橋口亮輔

原作・脚本:ペヤンヌマキ

出演:江口のりこ、内田慈、古川琴音、青山フォール勝ちほか

【あらすじ】

親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。

長女・弥生は「美人姉妹」と評される妹たちにいつもコンプレックスを抱いていた。次女・愛美は「優等生」の長女と比べられたことで能力を発揮できなかった過去の恨みを自身に抱えている。そして三女・清美は一人姉たちを冷めた目で見る。

一方で「母親みたいな人生を送りたくない」と共通の思いを胸の奥にしまっていた三人は、宿で母親への愚痴吐き大会。怒りを爆発させるうちに気持ちはエスカレートしてしまい、いつしかお互いを罵り合う修羅場へと発展していく。

ところがそこへ清美がサプライズで呼んだ恋人タカヒロが現れ、事態は思わぬ方向へと転がっていく。

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