今回紹介する映画『ユニコーン・ウォーズ』は、第37回ゴヤ賞で最優秀長編アニメーション映画賞を受賞した、要注目のアニメーション作品。
この賞はいわばスペインにおけるアカデミー賞的な権威をもったものであり、これに選ばれた作品であるとなると、結構な大作ではないかと身構えてしまいそうです。
しかしポスタービジュアルに描かれた可愛らしいキャラを見ると「ふむ、日本の”kawaii!”文化もここまで来たか…」なんてつい心がほころんでしまうことでしょう。
いやちょっと待ってください!先入観に騙されてはいけません。タイトルに付けられているとおり、この作品は「戦争」がテーマの作品であります。
日本的な”kawaii”キャラが可愛らしくもシュールなバトルを繰り広げると思ったら大間違い、トラウマまで抱えそうな背筋も凍る恐ろしい思いをすることでしょう。
映画館での大画面スクリーン鑑賞は要注意です……。
映画『ユニコーン・ウォーズ』概要
作品情報
『サイコノータス 忘れられたこどもたち』でゴヤ賞の最優秀長編アニメーション映画賞に輝き、世界的アニメシーンに知られたスペインのアニメーション作家・漫画家のアルベルト・バスケスによるダークファンタジー。
2013年にバスケス監督が発表した短編アニメ『Unicorn Blood』を長編化した本作は、森にすむユニコーンたちと敵対するテディベアとの争いの一面より現代的で複雑な社会構造、人間の闇などのテーマに切り込みます。
あらすじ
魔法の森に住むユニコーンは、先祖代々にわたってテディベアと争いを続けてきました。
ユニコーンとの戦いを迎えるべくテディベア軍の新兵訓練所で地獄の特訓の日々を送る新兵たち。アスリンと双子の兄ゴルディもまたそのメンバー。
彼らは消息を絶った部隊の捜索の指令を受け森へ向かうが、そこではさまざまな危険生物により命の危機に襲われ、ついには無残な屍の群れとなった隊員たちを発見し愕然とします。
かくしてユニコーンへの復讐を目指し、捜索隊はその群れが生息する森の奥深くに足を踏み入れていきますが……。
作品詳細
製作:2022年製作(スペイン・フランス合作映画)
原題:Unicorn Wars
監督:アルベルト・バスケス
配給:リスキット
劇場公開日:5月31日(金)より全国ロードショー
公式サイト:https://unicornwars.jp/
ホラーより怖い!「カワイイ」を逆手に取った巧妙な画作り
「不気味さとかわいさ」が共存する作風こそまさにバスケス監督ならでは。本作もその特徴を遺憾なく発揮しその異様な世界観をたっぷりと見せつけてきます。
テディベアたちは軍隊の「地獄の特訓」に耐えながら、訓練が終わるとどこか幼いかわいらしさを見せつつ、あるタイミングで強烈なバイオレンス性を発揮します。
ポスタービジュアルだけを見ると日本の『ケロロ軍曹』を彷彿するコメディーと想像しがちでありますが、このバイオレンスな部分が出てくると画は一気にそのグロテスク性が強烈にあらわになります。
イメージとしては、日本のホラー漫画家である御茶漬海苔や日野日出志の作風を思い浮かべてしまうほどのおどろおどろしさ。とてもポスタービジュアルだけでは想像できない、強烈なインパクト持ったイメージはある意味実写のホラー、サスペンスよりも衝撃的であります。
一方、この作品はユニコーンは「美しさ」を追求したもの、そしてテディベアは「かわいさ、そして生々しさとグロテスクさ」を追求したもの、とそれぞれで異なる作風をとっているところに大きなポイントがあるようにも感じられます。
物語の視点としてはテディベア側を中心として描いているのですが、これはテディベアの社会というものを人間的な社会構成に置き換えて描いていることを強調しているようにも見えます。
ユニコーンを嫌い排除しようとする根拠のはっきりしない思想、そして人同士のダークな裏の思想が行きかう文字どおり「人間の闇」のような感情。
画としてはハッとするような美しさをところどころに見せながらも、物語自体は非常に重々しく衝撃的な物語で構成されており、その中心にテディベアという集団を置いているというポイントは奇抜に思えます。
その一方で妙に当を得ているようでもあり、バスケス監督の秀逸なセンスを感じさせるところでもあるといえるでしょう。ラストシーンの衝撃性もしかり、ポスタービジュアルだけでは推し量れないショックを受ける、インパクトの強い作品であります。