映画『嗤う蟲』 「こんな村本当にあるかも」現実味たっぷりのヴィレッジ・スリラー

レビュー
(C)2024映画「嗤う蟲」製作委員会

希望を胸にとある地方の村へ移住してきた一組の夫婦が、村に隠された知られざる秘密に翻弄されていく姿を描いた映画『嗤う蟲』が全国公開されます。

「ムラ社会」という言葉をご存知でしょうか?これは「有力者を中心に厳しい秩序を保ち、しきたりを守りながら、よそ者を受け入れようとしない排他的な社会」という意味をもつ語句。本作では外部から実態が見えない分さまざまな恐怖や不安感をおぼえさせる重要アイテムの一つとなっています。

人間関係の希薄さが生み出すさまざまな問題が叫ばれている現代の、闇の一端ともいえる情景を感じさせる物語であり、ミステリアスな雰囲気の中でショックとともに社会の深部にあるおぞましい光景が感じられる物語であります。

『goo辞典』より

映画『嗤う蟲』概要

作品情報

(C)2024映画「嗤う蟲」製作委員会

田舎生活に憧れ都会から村へと移住してきた一組の夫婦が、村に存在する秘密の「掟」に追われ、絶体絶命の状態に追い込まれていく姿を描いたスリラー。

作品を手がけたのは『性の劇薬』『アルプススタンドのはしの方』などの城定秀夫監督。移住してきた夫婦役を深川麻衣、若葉竜也が担当。さらに村の指導者役を田口トモロヲが演じます。

脚本は内藤瑛亮が担当しており、彼がこれまでに担当した『先生を流産させる会』『ミスミソウ』などとの共通点を感じさせるミステリアスな空気感をたっぷりと漂わせています。

あらすじ

(C)2024映画「嗤う蟲」製作委員会

脱サラし農業を志す夫・輝道とともにイラストレーターの杏奈は、田舎での暮らしに憧れてとある村落、麻宮村に移住します。

自治会長の田久保のことを盲信しながら、過剰に杏奈らを気に掛ける村民たちに若干戸惑いを見せながら、二人は村でのスローライフを満喫していきます。

そんな中、村民の中に田久保を恐れる者たちがいることを知った杏奈は、村人に対して次第に不信感を抱くようになっていきます。

一方、輝道は田久保を中心として行われている秘密の仕事を手伝うことになり、 村に隠された秘密の「掟」を知ってしまいます。そして村から逃げられなくなった彼らは…。

作品詳細

製作:2024年製作(日本映画)

監督:城定秀夫

出演:深川麻衣、若葉竜也、松浦祐也、片岡礼子、中山功太、杉田かおる、田口トモロヲほか

配給:ショウゲート

劇場公開日:2025年1月24日(金)より全国順次ロードショー

公式サイト:https://waraumushi.jp/

「現代世界の緊張」を感じさせるリアリティと迫力のバトル映像

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本作はいわゆる「ヴィレッジ・スリラー」と呼ばれる種の物語。閉鎖的な地方の土地だからこその「知られざる秘密」に迫るミステリーを描いたものであります。海外作品では『ミッドサマー』『ウィッカーマン』『ヴィレッジ』、邦画でも近年の『みなに幸あれ』など、これまでも意外に多くの作品が発表されてきました。

国内では「移住ブーム」と呼ばれるほどに地方移住が増加している現在。本作に描かれている主人公たちが移住先で遭遇する危機は、流行に身を任せてしまうことに対するリスクにスポットを当てているようでもあります。

物語の中ではオリジナルのストーリーの中にそのメッセージ性を投影し、強烈な印象で描いています。

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物語の舞台はさまざまな事情を抱え、表には明かすことのできない秘密を抱えた村。いわゆる「ムラ社会」と呼ばれる地域構造が顕著な場所で、そこに村の実態を知らずにやってきた一組の夫婦が「孤立とつながり」という両方の恐怖に遭遇していきます。

両極端の恐怖を同時に味わうことになり、二人は窮地に追い込まれていくわけです。特に村が抱えた事情には、近年の感染症問題のような社会問題に言及した節も感じられます。

冒頭で述べた作品群と比較すると、スリラーという観点では狂信的な度合い、衝撃度という点で若干薄いと感じられるかもしれませんが、どこか「こんな村はあり得るかも」と思わせるような現実味が感じられ、ゾッとするような空気感をおぼえることでしょう。

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ラストで主人公夫婦は、ヴィレッジ・スリラーにありがちな「ムラ社会の真実にされるがまま」という感じにはならないのですが、その彼らの決断と行動は、客観的な視点で考えるとなんとなくネガティブな結末につながっているようにも見えてきます

彼らは「移住をしながら、最後には現地の人に抗う」という行動をとってしまうわけですが、現代における地方移住は、多くの場合は都会での生活から逃げるように移住を起こすことも多いわけで、その行動は結果的に自分たちの居場所を無くしてしまうとも見ることができます。

そう考えると、最後に彼らが行きつくところはどんなところなのか。彼らはなんとなく助かった格好に描かれているはずのものの、そこに救いは見られない非常にシリアスでネガティブな後味を残します。この余韻の気持ち悪さこそが、ある意味本作における最大の魅力ともいえるでしょう。

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