自身の暗い過去や逃れられない運命に悩みながらも生きる男女が一つの出会いで自身の新たな道を見出していく姿を描いたドラマ『あの歌を憶えている』が全国公開されました。
メキシコのミシェル・フランコ監督が手がけた本作は、これまで監督が生み出したサスペンス系の作品とは大きく異なる作風のドラマ。名優ジェシカ・チャステイン、ピーター・サースガードとのタッグで描かれた作品は高く評価を受けており、サースガードは本作で2023年・第80回ベネチア国際映画祭にてボルピ杯(最優秀男優賞)を受賞しました。
映画『あの歌を憶えている』概要
作品情報
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暗い過去を抱え生きている女性と認知症に悩む男性の偶然の出会いで、互いが支え合い希望を見い出していく姿を追ったドラマ。
『或る終焉』『ニューオーダー』などのミシェル・フランコ監督が作品を手がけました。
メインキャストは『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』『ゼロ・ダーク・サーティ』などのジェシカ・チャステイン、『ザ・セル』『マグニフィセント・セブン』などのピーター・サースガードの二人。
ほかにもテレビドラマ『ゴッドレス 神の消えた町』などのメリット・ウェバー、『サスペリア』(1977)などのジェシカ・ハーパーが名を連ねています。
あらすじ
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断酒会に参加し生活の再起を図りながら、ニューヨークで13歳の娘と暮らすソーシャルワーカーのシルヴィア。彼女は同窓会の席で、一人の男性・ソールと出会います。
その素行にどこか不審な点を感じていたシルヴィアでしたが、彼が若年性認知症で記憶障害を抱える身であることを彼の家族より伝えられ、さらに彼の面倒を見るよう頼まれます。
ソールの穏やかで優しい人柄と、彼内なる悩みに触れ、次第にひかれていくシルヴィア。一方で彼女もまた、過去の闇に抗いながら生きていました。
出会いにより互いの人生に光を感じてきた二人は、互いに寄り添いながら新たな道を歩き始めるのでした。
作品詳細
製作:2023年製作(アメリカ・メキシコ合作映画)
原題:Memory
監督:ミシェル・フランコ
出演:ジェシカ・チャステイン、ピーター・サースガード、メリット・ウェバー、ブルック・ティンバー、エルシー・フィッシャー、ジョシュ・チャールズ、ジェシカ・ハーパーほか
配給:セテラ・インターナショナル
劇場公開日:2025年1月10日(金)より全国順次ロードショー
公式サイト:https://www.memory-movie-jp.com/
恋物語にちりばめられた「人生の再生に必要なもの」のヒント
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終末期の患者を見守る看護師の姿を描いた『或る終焉』、結婚パーティーの最中を襲った暴徒の襲撃の様子を描いた『ニューオーダー』と、サスペンス的な印象の強い作品を代表作として輩出してきたミシェル・フランコですが、本作はどちらかというと「大人の恋」の物語。
ある意味フランコ監督としては新境地を見出した作品であるともいえますが、二人のメインキャストが見せる、人の裏にある闇や逃れられない運命など、人物背景の描き方、その深さという点においては監督ならではというカラーも見えてくるもの。一つの作風を確立させながらも、さまざまな人生模様を描くことができるという方向性を見出したストーリーであるともいえます。
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断酒会で目覚ましい成果があり、新たな人生を歩み始めているかのように振る舞い日々を生きる女性・シルヴィア。しかし実際に彼女の過去の闇は消え去ることもなく、いつまでも彼女に付きまとっています。
一方で、誠実に生きようとするも、自身の抱える問題と常に戦い、悩みながら日々を過ごす男性・ソール。奇妙な出会いの末にお互いを知り、心から通じ合っていく中でようやくお互いが救われていきます。
この展開は、さまざまな社会的救済活動が無駄とまではいかないものの、意外に成果を上げられない場合もあることを暗に示しているようでもあり、一方で心に傷を負い運命に翻弄される人々に手を差し伸べる上で何が重要なことか、そのヒントを示しているようでもあります。
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メインキャストであるジェシカ・チャステイン、ピーター・サースガードの存在感も、この作品では見逃せないところ。常に何かに苛立ちを抱えながら、心の支えを知り自身の心を解放していく姿は、多くの女性がどこか共感するものを見つけるのではないでしょうか。
またベネチア国際映画祭にて受賞を果たしたサースガードの立ち振る舞いは、どこか予測のつかないものを見せながらも複雑に揺れ動く男性の心理を見事に表し、物語のメッセージ性を鮮やかに示しています。
いよいよ春を迎えつつあるこの時期。新鮮な気持ちで新たな道に進みたい、そんな人々は深く共感できる物語であるといえるでしょう。
なお、タイトルにある「歌」もこの作品では印象的なところでありますが、この作品で要所に流れるのはイギリスのロックバンドであるプロコル・ハルムの「青い影」という楽曲。
その歌詞には二人の登場人物の揺れ動く心情がダブって描かれているようでもあり、その歌詞を辿ればさらに物語の真意を深く感じ取ることができるでしょう。