フランスのロベール・ブレッソン監督による1971年の名作映画『白夜』が4Kレストアされ再び上映されます。
ロシアの文豪・ドストエフスキーの短編を原作とした本作は、物語の舞台を撮影当時のパリに移し、寂しさを隠せぬ青年と自身の複雑な想いに悩む女性という若き二人の姿を描きます。
近年ではフランスでさえスクリーンで見ることも困難となっていた本作。日本では1978年に劇場初公開、2012年に35ミリニュープリント版にて再度公開が行われました。そして2025年に4Kレストア版によるファン待望のリバイバル公開が実現しました。
映画『白夜』概要
作品情報

フランスの巨匠ロベール・ブレッソンが、文豪ドストエフスキーの短編「Белые ночи(意味:白夜)」を翻案して描いたドラマ。孤独にたたずむ一人の男性と、複雑な自身の恋心に悩む女性とのふれあいの姿を描きます。
『ママと娼婦』『ことの次第』などのイザベル・ベンガルテン、当時は天体物理学の大学生で映画出演は本作のみだったというギョーム・デ・フォレがメインキャストを務めました。
あらすじ

理想の女性との出会いを想像し、自身の思いをテープレコーダーに吹き込むことを日課としていた、孤独な画家の青年ジャック。
ある夜彼は、セーヌ河にかかる橋、ポン・ヌフで一人の美しい女性マルトと出会います。どこか思いつめたような表情をしていたマルトは、自分の恋した相手が1年前にアメリカ留学に移り「結婚できる身分になったら1年後に会おう」と言われながら、その後相手は現れなかったと語ります。
マルトに恋心を抱いたジャックは、彼女が約束の相手に会えるようにサポートしますが、相手は現れません。
やがてマルトも、ジャックに惹かれ始め……。
作品詳細
製作:1971年製作(フランス・イタリア合作映画)
原題:Quatre nuits d’un reveur(英題:Four Nights of a Dreamer)
監督・脚本:ロベール・ブレッソン
出演:イザベル・ベンガルテン、ギョーム・デ・フォレ、ジャン=モーリス・モノワイエ、ジェローム・マサールほか
配給:エタンチェ、ユーロスペース
劇場公開日:2025年3月7日(金)より全国順次ロードショー(注:4Kレストア版)
※日本初公開は1978年2月25日、2012年10月27日に35ミリニュープリント版が公開
公式サイト:https://byakuya4k.com/
フランスの美しい風景の中で描く「ドストエフスキーの世界観」

一人の男性に想いを寄せる中、ある夜に出会った別の男性にも想いが芽生える女性。作品が発表された1971年という時代としてはセンセーショナルな印象でもある一方、ドストエフスキーの原作が1848年に発表されたものであると考えると、ある意味普遍的なテーマを扱った作品であるといえるでしょう。
ある人は『シェルブールの雨傘』をふと思い出すかもしれません。
恋の行方としては全く異なるものでありながら、『シェルブールの雨傘』は美しくかつもの悲しいドラマ、これに対してセーヌ河岸とポンヌフを背景にした美しいフランスの風景の中で展開する本作は、どこか人間の生々しさのようなものも感じられ、両者を比較すると物事の表裏を表しているようにも見えてきます。

物語では直接気持ちの憤りのような激しい感情は全く表されないにも関わらず、大きな感情の揺らぎが見る側にもほんのりと伝わってくる感じもあり、巧妙な演出を感じさせます。
この表現力の高さが、映画としての高い評価が今にも続く意味を考えさせられところであります。時代に沿った視線で人間の多様な面を描いてきたロベール・ブレッソン監督は1959年の『スリ』(原題:Pickpocket)、1969年の『やさしい女』(原題:Une femme douce)と本作同様にドストエフスキーの原作を自身のセンスで実写化した作品を発表しています。
またブレッソン監督の作品は、他にも数々の文豪たちの作品を原作としたものがあり、文学的な香りが見えるのも印象的なポイント。本作もその繊細な表現でこれまで非常に多くの人を魅了してきたものであります。