映画『リモノフ』 ベン・ウィショーが激動の時代を生きたロシアの偉人を熱演

レビュー
(C) Wildside, Chapter 2, Fremantle Espana, France 3 Cinema, Pathe Films.

母国ソ連を捨てアメリカへ、そして再び母国へと移り、自身の言葉を武器に信念に従って戦い続けた人物、エドワルド・リモノフの人生を描いた映画『リモノフ』が全国公開されました。

激動の時代の中で自らも激しく、しかし時には孤独にさいなまれながらも堂々と生きたリモノフの姿を追ったこの物語。

東西冷戦時代のウクライナ、ソ連からスタートしアメリカ、フランス、そして社会主義崩壊後のロシアへと目まぐるしく変化するその背景もあいまって、今という時代を改めて考えさせられる、そんな作品であります。

映画『リモノフ』概要

作品情報

(C) Wildside, Chapter 2, Fremantle Espana, France 3 Cinema, Pathe Films.

フランスの作家エマニュエル・キャレールによる伝記小説「リモノフ」を原作に、詩人、革命家などという複数の顔を持ち、多くの人々を魅了した実在の人物エドワルド・リモノフの人生を追ったドラマ。

『インフル病みのペトロフ家』『チャイコフスキーの妻』のキリル・セレブレンニコフ監督が作品を手がけました。

主演は『007』シリーズのQ役などで知られるベン・ウィショー。さらに『戦争と女の顔』のビクトリア・ミロシニチェンコ、『グラディエーター』のトマス・アラナらが名を連ねています。

また2024年・第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されており、世界的にも熱い注目を浴びている物語となっています。

あらすじ

ソビエト連邦下のロシアに生まれたエドワルド・リモノフ。

彼は、1950~60年代をウクライナ・ハルキウからモスクワへつ移り住みながら過ごしていました。

ある日、反体制派や詩人たちが集う別荘に入り浸る中で、その中の一人であったエレナと出会い恋に落ちたリモノフはやがて彼女とともに亡命、名声と自由を求めてアメリカに渡ります。

彼はそこで自由を手にしたものの、職も金も居場所もなく、エレナにも別れを告げられてしまいます。

孤独と挫折に打ちのめされ、絶望の淵に追い込まれながらも自らの言葉を武器として不条理と闘い続けるリモノフ。やがてフランスの文学界で注目を集めたリモノフはパリに渡り、ついに作家として世界に認められ、ついにはロシアに帰国しますが……。

作品詳細

製作:2024年製作(イタリア・フランス・スペイン合作映画)

原題:Limonov: The Ballad of Eddie

監督・共同脚本:キリル・セレブレンニコフ

出演:ベン・ウィショー、ビクトリア・ミロシニチェンコ、トマス・アラナ、コッラード・インベルニッツィ、エフゲニー・ミロノフ、マーシャ・マシュコワほか

配給:クロックワークス

劇場公開日:2025年9月5日(金)より全国順次ロードショー

公式サイト:https://klockworx-v.com/limonovmovie/

孤高のアナーキストの姿、行動から見える「対立の真実」

(C) Wildside, Chapter 2, Fremantle Espana, France 3 Cinema, Pathe Films.

東西に分かれた冷戦時代、それぞれの国の人たちは自国をどう思っていたのか、そしてその考えが本当に正しかったといえるのか

本作に描かれるリモノフの姿は、常に戦っている姿勢がうかがえますが、その相手は必ずしも何かの思想に従ったものではない。自らの敵に対し牙を剥き、傷つくことを恐れず立ち向かっていく。

一つの側面から見ると、彼のその行動の原動力はどこかハチャメチャなものであるようにも見えます。

しかし他の側面で考えると、体制や思想というものに縛られたものには、その中に存在する矛盾というものをどこか見落とされる傾向があり、彼の視点はその誰もが気づかないところを鋭く突いているようでもあります。この視点は、当時存在していた資本主義、社会主義という二つの思想の対立自体に対する批判性も見えてくることでしょう。

(C) Wildside, Chapter 2, Fremantle Espana, France 3 Cinema, Pathe Films.

冒頭では彼が亡命を経て自国ロシアに戻り、多くの人たちから「表向き」に歓迎されている式典の光景が映し出されます。

「表向き」といったのは、式典に参加している人たちが一見歓迎しているようで、彼に投げかける質問の中で暗に彼を批難するような言動を繰り返しているところがあるからです。

この言葉の攻撃に、我感ぜずと冷静に、そして攻撃的に返答するリモノフ。この光景には、社会主義体制が崩壊したにもかかわらず、どこか社会主義、「ソ連」という国の思想をまだ引きずっていたことがうかがえるでしょう。

自国に愛想をつかしながら、それでも戻ってきた彼。その経緯に埋め込まれた真意こそがこの物語の明確な焦点といえるものであります。

(C) Wildside, Chapter 2, Fremantle Espana, France 3 Cinema, Pathe Films.

物語では要所にルー・リード「Walk on the Wild Side」が流れますが、物語ではこの曲の詞に非常に強いシンパシーを感じさせる筋作りがなされています。

特にソ連から亡命を果たしアメリカ・ニューヨークへと渡るころのリモノフの姿を、どこかリードを意識したようないで立ちでシーンを演出しており、その曲の雰囲気が程よく感じられるものとなっています。

また画作りとしては時にかなりアバンギャルドなシーンに展開する箇所もありますが、先述のリードの曲や彼の在籍したベルベット・アンダーグラウンドの曲が流れているところからも、どこかこの時代に大きなムーブメントを起こしたポップ・カルチャーの影響を感じさせる画作り、展開も見られます。

一方で、アナーキーな状態でエネルギッシュに動き回る姿の一方で、時に孤独にさいなまれ人を求めるリモノフの姿には、歴史でいわれているツワモノのようなイメージからは離れた面も見られ、新鮮な感覚をおぼえることでしょう。「一人の人間より世界が見えてくる」、そんな物語であります。

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