映画『大命中!MEは何しにアマゾンへ?』笑いと冒険と再生が同時着火する“全部のせ”エンタメ

レビュー
(C)2024 BARUNSON E&A, ROD PICTURES, CJ ENM ALL RIGHTS RESERVED

企業戦士としてうだつの上がらない元メダリストの男性が、会社の命令でアマゾンにある無名の国でアーチェリーの監督に。しかし次々に巻き起こる奇想天外な事件が彼らを予想外の運命に巻き込んでいく!?韓国の新作アクション・コメディー『大命中!MEは何しにアマゾンへ?』が全国公開されます。

なんとも「ムムム?」な邦題タイトル(笑)。そういえば2023年には『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』なんて邦題をつけられた作品もありましたね。

韓国語の原題を日本語訳に直すと「アマゾンのライフ」。どちらかというと邦題に比べてもう少し平穏な印象もあるタイトルですが、その中身は笑いの止まらないエンタメ色に満たされながら、どこか社会風刺的な風味や、現代韓国のメッセージをはらんだ、非常に考えさせられる内容の多い作品であるともいえるでしょう。

映画『大命中!MEは何しにアマゾンへ?』概要

作品情報

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アーチェリーの元メダリストで平凡なサラリーマンが、アマゾンの奥地からやってきた弓の名手たちと異文化交流をしながら大会のメダル獲得を目指す姿を描いたコメディー。

作品を手掛けたのは、『ハード・ヒット 発信制限』のキム・チャンジュ監督。脚本を『エクストリーム・ジョブ』のぺ・セヨンが担当します。

そしてキャストには、同じく『エクストリーム・ジョブ』のリュ・スンリョン、チン・ソンギュが参加、捧腹絶倒の本作の物語を大いに盛り上げます。

あらすじ

かつてはアーチェリー韓国代表でメダリストにもなったジンボンは、競技を引退し平凡なサラリーマン。「社内のリストラ候補ナンバーワン」という厳しい立場におびえていました。

ある日彼は、会社から資源開発のきっかけを作るミッションとして「アマゾンの奥地にある世界的にあまり名を知られていない地で、その地元の選手にアーチェリー世界大会でメダルを取らせる」という奇想天外なミッションを課せられてしまいます。

どうにかしてリストラを免れようと奮闘するジンボン。ところが現地に向かうヘリが飛行途中で不時着、なんとか生き延びたものの、ジャングルをさまよう中で神がかった弓の才能を持つ3人の戦士、シカ、イバ、ワルブと出会います。

そして無事現地の政府に助けられたジンボンは、ミッション遂行に彼らは彼らが必要であると決断、国を説得し、現地通訳士のパンシクとともに、3人を連れてアーチェリーの大会が開かれる韓国に向かいますが……。

作品詳細

製作:2024年製作(韓国映画)

原題:아마존 활명수(英題:Amazon Bullseye)

監督:キム・チャンジュ

出演:リュ・スンリョン、チン・ソンギュ、イゴール・ペドロゾ、ルアン・ブルム、JB・オリベイラ、ヨム・ヘラン、コ・ギョンピョほか

配給:クロックワークス

劇場公開日:2025年12月26日(金)より全国順次ロードショー

公式サイト:https://klockworx.com/movies/amazon_me/

笑い・サスペンス・冒険が目まぐるしく融合する映画体験

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本作はオープニングから一気に観客をつかむほどのエネルギーに満ちた作品。手の込んだCGとスピード感のある演出により、冒頭数分で映画の“本気度”がはっきりと伝わります。

脚本を担当したぺ・セヨンは、2019年のアクション・コメディー『エクストリーム・ジョブ』でも、作品のカラーは「コメディー」でありながらアクション性を重視した作りを見せましたが、本作でもその持ち味が遺憾なく発揮されています。冒頭のインパクトは、まさに作品の勢いを象徴するような鮮烈さです。

先述の『エクストリーム・ジョブ』でもメインキャストを務めた主演のリュ・スンリョン、共演のチン・ソンギュという実力派がそろうことで、笑いと緊張感のバランスが見事に成立しています。ふたりの“人間味のあるドタバタ”は作品全体の温度を決定づけており、単なるギャグでは終わらない懐の深さを感じさせます。

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そして“予想外の方向”に物語が進むのも本作の面白さの核です。アマゾンのジャングルに突入していく中盤には、まるで『プレデター』の初期作品を思わせるような、緊張感あるサスペンスシーンが登場。密林の中で迫りくる“何か”への不安と、主人公たちの滑稽なやり取りが独特のテンションを生み、観客を一気に引き込んでいきます。

そこから物語は大きく展開し、全く異なる世界観へ。『クロコダイル・ダンディー』的カルチャーギャップの笑いへ転調したり、『クール・ランニング』のようなスポーツ映画的熱さを帯びてきたりと、ジャンルをどんどん横断していきます。まさに“全部のせエンタメ”。変化し続ける展開に、観客は飽きる暇すらありません。

歴史と個人が交差する、“生き直し”の物語としての本作

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アマゾンで起きる数々のハプニングは、文化の違いや国際的緊張をユーモラスに描きつつも、現実世界の争いや分断を想起させる寓話として機能しています。

特にラストで語られるアマゾンの原住民族の物語は印象的です。争いや誤解が絶えない現代において、人と人がどうやって歩み寄るのか──語られるメッセージは、意外なほど深く胸に響きます。

一方で本作は、オリンピックメダリストという“国家的英雄”のその後を題材にした作品群とも通じるテーマを持っています。

主人公は、かつて国の期待を背負って栄光をつかんだ人物。しかし「栄光の後の人生」をどう生きるかという問題は、韓国映画がたびたび描いてきた社会的テーマのひとつにもつながっていくように見えます。2005年の『クライング・フィスト』や2008年の『私たちの生涯最高の瞬間』などが丁寧に扱ってきた題材とも重なります。

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背景には、かつて韓国という国が全斗煥政権時代に推し進められたスポーツ強化政策と、その後の民主化による社会の揺らぎがあります。

栄光の裏で、人生の道を見失うアスリートたち。主人公たちが「これまでの努力は何だったのか」と苦悩する姿は、韓国社会が抱えてきた歴史的ジレンマを自然に想起させます。

本作が秀逸なのは、こうした社会的背景を重く語らず、あくまでコメディーと冒険の中に埋め込んでいる点です。笑って泣いて心温まるだけでなく、「いまの世界に欠けている何か」をそっと示してくれる作品であるといえるでしょう。

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