メキシコ人監督アロンソ・ルイスパラシオスによる、世界の縮図をレストランの厨房の中に投影し描いたドラマ『ラ・コシーナ/厨房』が全国公開されます。
イギリスの劇作家アーノルド・ウェスカーによる1959年初演の戯曲「調理場」を原作に、先進的なニューヨークの街にアメリカンドリームを求めてやってきた移民たちの姿を描いたこの物語。
ほぼ全編モノクロ映像で描かれた作品ですが、大胆な手法もふんだんに用いられ見応えのある映像として仕上げられている一方、非常に社会的なメッセージ性も感じられる注目の作品であります。
映画『ラ・コシーナ/厨房』概要
作品情報
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スタッフの多くが移民で構成されたニューヨークの大型レストランで織り成される人間関係をさまざまな視点で描いたドラマ。
作品を手がけたのは、『コップ・ムービー』などのアロンソ・ルイスパラシオス監督。主演を『コップ・ムービー』のラウル・ブリオネスが担当、ヒロインには『キャロル』のルーニー・マーラがキャスティングされています。
作品は2024年・第74回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品されました。ほかにもトライベッカ国際映画祭など多くの映画祭にも出品され、高い評価を得ています。
あらすじ
ニューヨークにある大型レストラン「ザ・グリル」。その厨房で、いつもの忙しい朝が始まる。
ところがその中で前日の売上金の一部を紛失してしまったことが判明、移民がほとんどを占める従業員に盗難の疑いがかけられてしまいます。
できるだけ気にしないように仕事を始める彼らでしたが、厨房では新たなトラブルが次々と発生、料理人やウェイトレスたちのイライラはつのり、厨房は混とんとしていきます……。
作品詳細
製作:2024年製作(アメリカ/メキシコ合作映画)
原題:La cocina
監督・脚本:アロンソ・ルイスパラシオス
出演:ラウル・ブリオネス・カルモナ、ルーニー・マーラ、アンナ・ディアス、モーテル・フォスター、ローラ・ゴメス、オデッド・フェール、エドゥアルド・オルモス、スンドス・モスバ、ジェームズ・ウォーターストン、リー・セラーズ、スペンサー・グラニース、ベルナルド・ベラスコ、エステバン・カイセド、ネブリ・バサーニ、ホセ・ルイス・ペレス、グスタボ・メルガレホ、ピア・ラボルデ=ノゲース、シャバナ・カルダー、マリア・フェルナンダ・ボスケ、ジュリア・ハルティガン、ジョン・パイパー=ファーガソンほか
配給:SUNDAE
劇場公開日:2025年6月13日(金)より全国順次ロードショー
公式サイト:https://sundae-films.com/la-cocina/
カラフルな「モノクロ」映像で印象深く描く社会的な課題と複雑な人間心理
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モノクロ映像ならではの荒んだ雰囲気、古めかしい空気感で幕を開ける本作。英語とスペイン語がぶつかりながら、どこかぎこちない人同士のやり取りが、厨房で仕事をする陽気な移民たちのしぐさで吹き飛ばされてきます。どこかオープンな画角からは古さのようなものを感じさせる、人物をどのように描いていくのか、見るものに興味を植え付けていきます。
この映像から見えてくるのは、移民従業員たちの少し荒みながらも強く生きる姿。普段の与太話に笑顔を見せながら、生き生きと仕事に向き合う姿。一方で自身の悩みに顔をゆがめる姿。その生々しい表情はある意味カラー表現を越えて色彩感にあふれているようでもあります。
一方で「14分間ノーカットシーン」などの大胆な試みが見えるシーンもあちこちに見られ、非常に見応えのある作品となっています。
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その豊かな表現力で描いているのは、まさにホットな論点。物語でフィーチャーされている人物たちは、いずれも移民たち。その言語より彼らのほとんどは現在アメリカでさまざまに注目されているメキシコ移民であることも推測できるでしょう。
現在、大統領令により不法移民の強制排除を進めているアメリカ。一方でメキシコからの移民も多く抱え、地域を支える原動力にもなっていると、この動向に強く反対するカリフォルニア州。同じアメリカという国の中で、強い反発の様子が見える現状において、この物語は移民側の視点によるアメリカの今が見える物語となっています。
敢えて舞台がカリフォルニアではなく、ニューヨークであることも、物語の意味をより印象深く物語を形作る要因となっています。また物語の中で進展していく「大きなトラブル」は、さらにこのポイントを鮮やかに描いていきます。
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どぢらかというと表情も少なく冷徹な雰囲気を見せる「アメリカ国民」たちと、笑顔、苦悶など目まぐるしい表情の変化を見せる移民たち。モノクロ映像の中でその表情は非常に強い印象を放ち、物語の論点をより強く浮きだたせています。
また本作では、わずかに白と黒以外の色が現れるシーンがあります。この「色」を中心に描かれる人同士の繋がりもまた物語の真意をより一層際立たせる要素の一つであり、登場人物それぞれの心理を深く感じるための鍵といえるアイテムであり、注目すべきポイントでもあります。

