1970年代の韓国を舞台に、密輸をめぐり奔走する人々の激しい生きざまを描いた韓国映画『密輸 1970』が公開となります。
1970年代の韓国は、大きな経済的発展を遂げながらも、都市部と農村の所得格差や貧富格差などといった問題も多く存在しており、この物語はその不遇の時代を力強く生きる女性たちと、そんな彼女らをうまく利用してやろうとたくらむ男たちの激しい戦いを描いたアクション活劇。
70年代の韓国は、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の政権時代で、この時代は工業発展により『漢江の奇跡』と呼ばれる高度経済成長が遂げられた一方で、民主化運動が弾圧されある意味独裁政権と揶揄されるなど、国内情勢としては不安定な状況にありました。
それから1979年に朴大統領が暗殺され、いわゆる「ソウルの春」と呼ばれる民主化ムードが漂った政治的過度期、1980年の「光州事件」と、激動の時代を迎え今に至ったわけです。
そんな時代の片隅を感じさせるこの物語は、どこか勇ましく美しい女性の姿を感じるストーリーであります。
映画『密輸 1970』概要
作品情報
1970年代の韓国、海辺の町を舞台に、巨額の金塊などの密輸をめぐって繰り広げられる騙し合い、争いのさまを描いたアクション作品。
『モガディシュ 脱出までの14日間』のリュ・スンワン監督が作品を手がけました。『タチャ イカサマ師』『国家が破産する日』のキム・ヘス、『未成年』『完璧な他人』のヨム・ジョンアがダブル主演を務めます。
他には『モガディシュ 脱出までの14日間』にも出演したチョ・インソン、ヨム・ジョンアが出演した映画『スタートアップ!』で主演を務めたパク・ジョンミン、同じく『スタートアップ!』に出演、韓流ドラマではおなじみの名バイプレーヤー、キム・ジョンスらが名を連ねています。
また本作は2023年・第44回青龍映画賞で最優秀作品賞、チョ・インソンが助演男優賞を獲得するなど4冠を達成しました。
あらすじ
1970年代半ばの韓国。とある漁村クンチョンでは、新たに建設された化学工場が垂れ流す廃棄物の影響で海が汚染され海産物の収穫が壊滅的となり、海女たちは生活の危機に陥っていました。
そんな中でリーダーのジンスクは、皆の生活を守るために海底から密輸品を引きあげる仕事を請け負うことになります。
初めての仕事は大成功をおさめ、生活が徐々に潤っていく仲間たち。ところがある日、作業中に税関の摘発に遭い海女たちはリーダーのジンスクが逮捕されてしまいます。一方で彼女の親友であるチュンジャは現場から密かに逃亡していました。
2年後、ソウルからこっそりとクンチョンに戻ってきたチュンジャ。とあるきっかけで密輸の仕事を得るチャンスを得た彼女は、出所したジンスクに因縁をつけられながらも、新たな密輸の儲け話を持ちかけます。
かくしてお互いの確執を抱えながら、クセモノの男たちを相手に海女たちは再起を賭けて危険な大仕事に挑んでいくのでした……。
作品詳細
製作:2023年製作(韓国映画)
原題:밀수(英題:Smugglers)
監督:リュ・スンワン
出演:キム・ヘス、ヨム・ジョンア、チョ・インソン、パク・ジョンミン、キム・ジョンス、コ・ミンシほか
配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス
劇場公開日:7月12日(金)より全国ロードショー
公式サイト:https://mitsuyu1970.jp/
二人の全く異なるキャラクターがタッグ、「強い女性」を魅せる!
とあるさびれた漁村で、貧しいながらも強く生きる人々。この村の近くに化学工場ができ、工場から流れ出る廃液で魚介類が取れなくなり、海女たちの困り果てた姿からこの物語は始まります。
そんな彼女らが危機の突破口としてたどり着くのが、いわゆる「密輸」。初めての仕事がうまくいきホクホク顔の彼女らでしたが、そこに女性を金づるとしか思わない男たちがはびこっていきます。
そして男たちの不本意な圧力に海女たちは一見屈しながらも、徐々に反撃を加えていくわけです。
この海女たちのリーダー役を務めるのが、キム・ヘス、ヨム・ジョンアという二人のベテラン俳優。
『タチャ イカサマ師』では腹の読めないクセモノ女性を描いていたキム。『国家が破産する日』でも、大きなハプニングに心を揺り動かされながら、動じない表情を見せるクールな人物を演じています。そんな彼女が今回演じる女性チュンジャは、どこか陰の部分を持ちながらも冷静沈着にことを進める策士。
一方ヨムが演じるジンスクは、信念と情熱、そして正直さでチームをまとめるリーダー。韓流ドラマ『クリーニングアップ』などで見せた実直な表情はまさに「女性であればついていきたい」と思えるような強いリーダーシップを感じさせます。
一見正反対な性格の二人が、当初は反発しながらもいつの間にか団結し、海女たちを率いていきます。そして男たちに翻弄されているはずが、いつの間にか翻弄しているありさま。これは非常に痛快であり、本作の見どころとなる重要なポイントといえるでしょう。
エンタメ的でありながら社会派的、リュ・スンワン監督作の真骨頂!
海女たちの総元締め、密輸を厳しく取り締まりながらも、裏で不穏な動きを見せる税関、そしてこの密輸ビジネスに新たに参入しようとする、都会からのヤクザな面々という男たち。
三つ巴ならぬ「四つ巴」の中で、一番弱い立場の女性たちがどう勝ち上がっていくのか?
この作品は、ある意味近代のフェミニズムに言及するポイントも感じられるところであります。フェミニズムという考え、その空気がありきでさまざまな思想が発展しているようにも見える現代。
この物語はかつて女性が「このような扱いをされる傾向があった」という事実を示し、フェミニズムという思想の重要性を改めて説いているようでもあります。
『モガディシュ 脱出までの14日間』ではどこかコミカルながらも、国の分断という社会的な問題に深く切り込んだリュ・スンワン監督だけに、この作品も社会課題に深く言及したメッセージを感じさせる物語であります。