ネット社会、マスコミ、情報操作、権力抗争…情報社会となった現代の裏側で、一人の男性が大きな権力と真っ向勝負を繰り広げるさまを、想像だにできない緻密な展開で描いた映画『コメント部隊』が全国公開されます。
韓国のジャーナリスト、小説家であるチャン・ガンミョンによる、韓国の国家情報院による世論操作事件を題材にした同名小説を映画化した本作。日本を凌ぐ勢いで情報化社会としての発展を遂げてきた韓国という国の作品だけに、非常にゾッとするような現実味を覚える物語であります。
映画『コメント部隊』概要
作品情報
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韓国のチャン・ガンミョンによる同名小説を映画化した物語。大きな権力に抗う一人の新聞記者が、戦いの中で立て続けに遭遇する複雑な謎の数々に愕然とする姿を描きます。
作品を手掛けたのは、『誠実な国のアリス』のアン・グクジン監督
主演を『犯罪都市 THE ROUNDUP』のソン・ソックが担当、キャストにはほかにも『82年生まれ、キム・ジヨン』のキム・ソンチョル、『不思議の国の数学者』のキム・ドンフィ、ドラマ『悪鬼』のホン・ギョンらが名を連ねています。
あらすじ
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記者としての実力はあるものの、どこか見栄っ張りな性格が玉にキズの社会部記者イム・サンジン。彼はとあるきっかけで大企業マンジョンの不正に関する特ダネ記事を出しますが、それが誤報であることが判明し炎上、更に事件の関係者が自殺してしまうという自体にまで発展し、停職の処分を受けてしまいます。
ところがそんな彼のもとに、炎上の原因がマンジョンの仕業であったと語る謎の情報提供者から連絡が入ります。
その人物は、自分のことをネット世論を操るコメント部隊「チームアレブ」のメンバーだと主張、サンジンと対面した彼は「報酬さえ支払えば真実を嘘に、嘘を真実にすることができる」と話しますが……。
作品詳細
製作:2024年製作(香港映画)
原題:댓글부대(英題:TROLL FACTORY)
監督:アン・グクジン
出演:ソン・ソック、キム・ソンチョル、キム・ドンフィ、ホン・ギョンほか
配給:クロックワークス
劇場公開日:2025年2月14日(金)より全国順次ロードショー
公式サイト:https://klockworx.com/movies/comment/
現代韓国の「権力と国民」の対立の縮図を示す物語
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冒頭の導入部分は、まさに現在ホットなニュースとなっている韓国のユン大統領をめぐるさまざまな動きに言及した展開のようでもあります。韓国サスペンスはこうした大企業、財閥などの大きな権力に個人レベルの紙面が果敢にも闘うという図式が描かれることが多々ありますが、ユン大統領に関するニュースに関しても市民レベルの人たちが集まっていることから、この物語は現代の韓国社会の縮図を一つのスト-リーで示したものであるといえるでしょう。
本作では社会部記者イム・サンジンが、自身の「記者」という立ち位置で大きな力に立ち向かっていこうとする姿が描かれ、ここでも個人が大きな力に立ち向かっていく姿が描かれるわけですが、物語で示されるのは単に正義を描いた奮闘劇というよりは、なんらかの「危惧すべき事態」を示しているようにも見えます。
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たとえば物語で示されるのは、主人公サンジンが信念に従い渾身の一撃を繰り出し相手に大きなダメージを与えたつもりが、自身がダメージを食らってしまうという展開があります。ここには現代の権力者は想像以上の巧妙さで人々を操作することを、抗う側が気づかないままに行使してくるという危険性を示しているようです。
権力側は知らぬうちにマスコミという立場自体も飲み込み、恐ろしい存在であったことを、彼の存在が地に落ちてしまうまで気がつかないままとなってしまいます。
これに対し最後のシーンで見せるサンジンの姿、そして彼が発したメッセージは、結果的に「彼ら自身は無力ではない」と誇示しているものの、一方でその道は果てしなく厳しい世界であるということを物語で示しているわけです。物語はもちろんハッピーエンドではなく、かといってディストピアとも言い切れない。世界の裏にある荒涼とした闇の光景を、巧妙なストーリーで描いた物語であるといえるでしょう。
主演を務めたソン・ソックは、アクション映画『犯罪都市 THE ROUNDUP』で強烈なインパクトを持つ凶悪犯を演じマ・ドンソク演じる無敵の刑事と真っ向勝負を繰り広げましたが、体のぶつかり合いから本作では一転して言葉で戦いを繰り広げる役柄へと姿を変えています。
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しかし『犯罪都市 THE ROUNDUP』とは全く違う役柄でありながら、彼がそれぞれの作品で演じたキャラクターにはどこか共通するようなものも感じられます。
それは良くも悪くも自身の信じる道を真っ直ぐに突き進む執念。この執念を感じさせる役はソンならではともいえるのではないか。本作の彼の存在感は、そんな彼自身の特質にスポットを当てたものであったということもできるでしょう。
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一方、ラストにはまるでキツネにつままれたような大どんでん返しが隠されています。作品の最初には、本作が人物の名前などだけを意図的に変えた事実である、というメッセージが示されます。
ところがエンドロールが終わったあとで示されるメッセージには物語の本質が巧妙に仕組まれているようでもあり、多くの人が思わず絶句してしまうでしょう。