映画『落下の王国』幻想的な映像と希望が交差する二重奏

レビュー
(C)2006 Googly Films, LLC. All Rights Reserved.

長編デビュー作「ザ・セル」で鮮烈なビジュアル世界を築き注目を集めたターセム監督が、2006年に製作した長編第二作『落下の王国』が4Kリマスターを施され、新たに全国公開されます。

本作はターセム監督が構想26年、撮影期間4年をかけて2008年に完成させたオリジナル作品。CGに頼らず13の世界遺産と24カ国以上のロケーションをめぐって撮影されており、その壮麗な映像と独創的な世界観が当時話題を呼びました。

今回公開される4Kデジタルリマスター版では、オリジナルの劇場公開版ではカットされた新たなシーンが追加されています。

映画『落下の王国』概要

作品情報

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1915年の病院を舞台に、絶望したスタントマンの男性が一人の少女と交流する中で聴かせた、6人の勇者たちの壮大な冒険物語が並行して展開する冒険ドラマ。

ターセムが私財を投じて挑んだ自主製作映画ですが、製作でデビッド・フィンチャーとスパイク・ジョーンズがサポートとして名を連ねています。

また特徴的でもあるコスチュームデザインは『ドラキュラ』でアカデミー衣装デザイン賞を受賞、『ザ・セル』でもターセム作品に参加した世界的デザイナーの石岡瑛子。

あらすじ

1915年、映画の撮影中に負った大怪我で入院中のスタントマン、ロイは、自暴自棄となり絶望の淵にいました。

彼は同じ病院に入院している無垢な5歳の少女、アレクサンドリアを利用し、薬剤室から自殺用の薬を持ってこさせようと画策します。

ロイはアレクサンドリアの気を引くため、愛するものを失い深い闇に沈んだ6人の勇者たちが悪に立ち向かう、壮大な冒険物語を即興で語り始めます。

アレクサンドリアはロイの語る美しくも悲しい物語の世界に引き込まれていき……。

作品詳細

製作:2006年製作(アメリカ映画)

原題:The Fall

監督・共同脚本:ターセム

出演:リー・ペイス、カティンカ・アンタルー、ジャスティン・ワデル、ダニエル・カルタジローン、エミール・ホスティナ、ロビン・スミス、ジートゥー・ベルマ、レオ・ビル、ジュリアン・ブリーチ、マーカス・ウェズリーほか

配給:ショウゲート

劇場公開日:2025年11月21日(金)より全国順次ロードショー

公式サイト:https://rakkanooukoku4k.jp/

息をのむ雄大な映像世界。ターセム監督が追求する「非現実の美」

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本作の特徴は、なんといってもターセム監督による圧巻の映像美。

ターセム監督といえば、初監督作品『ザ・セル』で人間の潜在意識をめぐる、まるで悪夢のような世界を鮮烈な色彩で描き、強烈な印象を残しました。

本作『落下の王国』もまた病室の青年が「ハッタリ的な発想で語り聞かせる『頭の中の戯曲』」を映像化している点で「非現実性」「幻想的な美学」を追求しており、『ザ・セル』と共通するポイントが垣間見えてきます。

観客の視界に映るのは、息をのむほどに雄大な風景と色彩の洪水。

物語の舞台となる「戯曲」のシーンはまさしく「幻想の極み」で、一枚の絵画のようなイマジネーションあふれる構図により、観客を現実から遠く離れた驚愕の世界へ誘います。

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映像の多くはあまりにもスケールが大きく、現代であればまずCGでの表現処理に依存するであろうと考えられるもの。

しかし本作は世界20カ国以上で大規模なロケ撮影を敢行、そのスケール感はCGでは表現しきれないリアリティと重みが感じられます。

もともと2006年の映像作品であることからすると、その美術と技術は時代的のかなり先を行っていたといえ、当時から「先進的」な映像作品として大きな評価を受けていたことも大きく頷けるところであります。

唯一無二の壮大なスケール感と色彩の美しさは、やはり劇場の大スクリーンを通してこそ最大限に堪能できるもの。そ

の圧倒的な映像美は、わざわざ映画館へ足を運ぶだけの価値があるといえるでしょう。

絶望と創造が織りなす、ひねりの利いた二つの物語

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本作の魅力は、その圧倒的な映像美だけではありません。

改めて「The Fall」という原題に注目すると、それはまずスタントマンである主人公ロイが事故で肉体的、「落下」したことを意味します。

そしてさらに彼がキャリア的にも人生のどん底へと「転落」し、精神的な平衡を失っていく状態を同時にイメージしていることが分かります。

まさにこのタイトルのイメージから想像される意味が、物語の深さにつながっていくわけです。

物語は「怪我で人生に絶望したスタントマンの青年と、彼が入院する病院で出会った少女との対話」という現実パートと「青年が少女に語り聞かせる『ある山賊の旅を描いた戯曲』」パートが、並行して展開します。

最初はシンプルに義賊的な物語に思えた「戯曲」ですが、青年の心の絶望や願望が反映され始めるにつれ、登場人物たちの設定や運命に思わぬ変化が現れます。

強気に見える英雄にも弱い人間的な部分があったり、挫折や裏切りといったユニークな展開が加わったりすることで、物語は映像のインパクトに負けない深みを増していきます。

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また青年と少女の間の会話は、まるでアドリブ演技のように自然な光景を示しており、そこに予想外の没入感が生まれます。

その会話は他愛もないやり取りのようでありながら、人生のどん底にいる青年が、純粋な少女との出会いを通じて、自身が作り出した物語と共に変化をしていきます。

そしてかすかな希望を見出し、絶望に沈んだ青年の心が再生していく物語が、この二つの交差する二つの光景の中に込められているのです。

本編とはほぼつながりがないように流れる最後のエンディング映像は、本編のテーマに繊細に絡み合い、ポジティブな雰囲気を残して最後に観客に希望を感じさせてくれます。

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