VR映画ってなに?
ちょっと前から話題になっている、VR映画という新しい表現方法のコンテンツがあります。
VR映画という言葉を聞くと、多くの方は「VRゴーグルの中の巨大スクリーンで映画館と同じような感じで映画を見る」と思うかもですが、ここでいうVR映画は違うんです。
VR映画とは「VRでの演出を練り込んだ、VR機器で視聴することを前提に作った映画」なんです。
現実の映画館で見る映画は、視聴者から見ると真正面のスクリーンの中にしか映像がないですよね?
VR映画だと真正面はもちろん、後ろにも上にも足元にも360度映像があるんです。
映画の世界の中に自分が入ったような状態で鑑賞する映画なんです。
VR映画の方のイラストは感覚的に表示しているのですが、「自分の目(一人称視点)」でみている感じになりますので、普通は自分の背中が見えるということはあまりありませんね。
VR映画だと自分が見た方向を自由に見ることができるということが多いです。
たとえば、真正面から怪獣が来ているシーンがあるとしましょう。
目の前には迫り来る怪獣がいるのですが、後ろを振り向くとビルが見える、上を見ると怪獣に徐々に近づいてきている戦闘機が見える、足元を見るとボロボロのアスファルトが見えるといった感じになります。
音響にも方向の要素が加わるので、右からキャタピラの音が聴こえてくるから右を見てみると戦車が接近しているという感じです。
これは本当に臨場感がすごい!
VRゲームなどを経験した人にとっては、「VRゲームと何が違うの?」という疑問が湧くかと思いますが、ゲームは自分主体で自分の体をコントロールして自分が物語を進めることが多い一方で、VR映画はあくまで第三者的な立ち位置で、流れるストーリーを受動的に鑑賞するものだと言えます。
作品によっては演出の一部であなたが登場人物になり変わりゲームのように操作することがあるかもですが、基本的にはあなたは観客という立場なのです。
登場人物からあなたの姿は見えないし、観客の時のあなたが映画の世界に何か影響を与えるということもないでしょう。
実は私の身近ですでに似たようなものがあって、cluster等メタバースでの演劇鑑賞がVR映画に近いかもしれません。
自分のアバターを好きな位置に動かして好きな角度から、アバターの演劇を楽しむことができるのですが、VR映画ってこれの分岐版かなと感じました。
機動戦士ガンダム: 銀灰の幻影(ぎんかいのげんえい)とは
VR映画という概念が生まれて、ほんのり枝分かれしながらいろんな実験的手法がちょろちょろ出てきている中で、2024年10月、私たちのとって身近な作品であるガンダムがMeta Quest専用のVR映画作品としてリリースされました。
機動戦士ガンダム: 銀灰の幻影(ぎんかいのげんえい)
U.C.0096―。
https://www.gundam.info/feature/silverphantom/
連邦でもジオンでもない非公式の傭兵組織アージェント・キールは、
連邦高官アザミ・メギッネの暗殺任務を請けていた。
ジオンと内通するアザミの存在を公にできない連邦軍からの依頼だったが、
その出撃直前に彼らの艦隊を襲撃したのは、他でもない連邦軍のジェガン隊であり……。
混迷を極めた状況の中で、アージェント・キールが密かに所有する銀色のガンダムが
宇宙に放たれる。
ガンダムファンに馴染み深い表現をすれば、逆襲のシャアの続きの時代でガンダムUCと同じ舞台設定です。
この宇宙世紀を舞台にした新作が銀灰の幻影(ぎんかいのげんえい)です。
Meta Questシリーズ専用のVR映画ということで、大変ニッチな市場を攻めるんだなぁと驚きましたが、なんだかんだでMeta Quest2だけでも世界で2000万台以上売れているらしいんですよね。
ゲーム機で言えばゲームキューブと同じくらいの販売台数らしいです。(瑠璃星こねこ調べ)
これに、現在の名機Meta Quest3の販売台数や、これから発売される廉価版Meta Quest3Sの販売台数が加わるわけですから、市場規模としてはVRはばかにできないものになっているのかもしれません。
この新作VR映画、気になるお値段は2,800円(税込)でした。
映画館で映画を見るよりはお高いですが、何度も自由に見られることを考えるとかなり優しいお値段と感じます。
本編の映画以外に、ミニゲーム(とはいえ単体で売れそうなレベルの本気度)やMRギャラリーもついている充実ぶりで、ガンダムだから大量に売れるであろう期待を込めたサービスコンテンツの可能性もありますね。
VR映画として機動戦士ガンダム: 銀灰の幻影はどんな感じだった?
ネタバレありません。
スクショ画面多用でお伝えしたかったのですが、スクショ掲載禁止とのことで文章と重加工スクショでのお伝えとなります。
アプリを立ち上げると、主人公の部屋のPCの前というところから始まります。
主人公(=今は自分)は自室のPC画面で当時のガンダムの映像を眺めているのですが、なつかしい初代ガンダムなどの映像を見ているとゆーっくりと部屋全体が暗くなってきて、映像も大きくなってきて気づいたら物語の中に入っている感じになりました。
自分は物語の中にいるのですが、まずはただ観察するだけの「物語の中には存在しないもの」です。
物語の登場人物になっているなどではなく、その場にいるただの観客です。
これを私は観客モードと呼びます。
観客モードの時は自分の位置は固定されており、その位置で頭を動かしたり体の向きを変えたりすることで物語を好きな角度から見ることができるんです。
しゃべっている登場人物の正面が自分の立ち位置になると、最初はしゃべっている人が目に入りますが、真後ろを向けば自分の背中にある窓の外を眺めながらお話を聞くことなどできるんですね。
立ち位置が決められている中で物語を見る向きを自由に変えられるという感じでした。
好きな角度から見れるこの仕組みは、トーク中にはあまりありがたみがない(話が長い時の暇つぶしにはなる?笑)のですが、バトル鑑賞中だとものすごく楽しいんですよね!
戦っている二機のモビルスーツを注視することもできますし、その周りにいて次に行動を起こしそうなモビルスーツを注視することもできます。
正面のモビルスーツを眺めていると私の後ろからビームが飛んでくる…飛んできた方へ振り返ってみると別のモビルスーツがビームを撃ちながら近づいてきていたなどの演出はVR映画ならではですね。
作中では自分が時々主人公の体に入り込む(私は主人公モードと呼ぶ)こともあり、この時はゲームのように主人公を操作してストーリーを進めることになります。
毎回求められることが違うのですが操作方法は誰かしらがその場その場で説明してくれます。
グローブの外側のスイッチを押したり、モビルスーツのコックピットでレバーを握って操縦したり、主人公を操作して脱出したり、宇宙空間に出てゴミ掃除のようなことをやったり、多種多様で中には手に汗握るほどの迫力があるものもありました。
しかしながら、この部分の操作性があまりよくないと感じ、操作に対する手間取りが映画としてのテンポを壊しているかなと感じることもありました。
主人公モードはさほど自由度があるわけでもない(※)のでほぼ作業なのですが、それでも「実際に操作する時はこんな感じなのかぁ!」という発見があったり、ガンダムの世界の細かな部分を主人公の体を通して体験できたりと、VR映画の世界への没入感をさらに高める役割を果たしていたと思います。
※VR映画とゲームの境目がさらに難しくなっちゃうお話なのですが、主人公モードでの途中の行動でストーリーに分岐もあるんですよね。
主人公モードに関しては実験的な手探り感が多いと感じるのも実際のところで、より自然でより操作性の良い方法に洗練されてくるとVR映画ならではの大きな強みとなると思います。
ガンダムファンならよくご存知かと思いますが、ガンダムって初代から後の時代になると全天周囲モニターっていう上下前後左右360度全部見渡せるガラスの球体みたいなコックピットになるんですよね。
これとVRの相性がめちゃくちゃ良かった!
作品の構成上、観客モードでも主人公モードでもコックピットの中にいることが多いのですが、リアルな全天周囲モニターコックピットを実体験できるだけでもファンにとってはめちゃくちゃ楽しいことなんですよね。
正直、モビルスーツの操作方法には小首を傾げる部分もありますが、このVR映画に漂う「体験が楽しすぎるから細かいことはどうでもいい」が上書きしてくれていました。
画像を加工すると大変伝えにくいんですけど、観客モードだとコックピットの隣に立っているみたいな視点が多かったです。
もちろんこの状態でも360度眺めることができるし、覗き込めばコックピットのコンソールなどの細かな部分もじっくりと観察することができます。
ガンダムの世界をいろんな視点でじっくり観察できるというのもこの作品の大きな魅力の一つかも。
感じた不便さと小さな不満
VR映画は作り方次第で鑑賞方法が変わってくるのですが、機動戦士ガンダム: 銀灰の幻影に関しては以下のような不便さがありました。
・劇中のバトルが拍子抜けするほど陳腐で、操作性も「え?そうなん??」って感じだったのですが、このチープさが逆に面白かったです(笑)
最初のバトルで”叩いてかぶってジャンケンポン”みたいだなって思っちゃいました。
映像に迫力があるので体験としてはとても面白かったのですが、仮にスマホゲームとかでこのバトルシステムが出てきたら大コケするやつではと思いました。(やった人には伝わるであろう部分)
・映画の長さがわからないのが地味なストレスになりました。VRゴーグルのバッテリーや自分の体勢疲れとの戦い的な側面があったので、上映時間や残り時間の大まかな目安があればより快適だったかも。
もちろん、映画の残り時間を知ることが作品にとってのノイズになるという意見もあると思うので、知りたい人が知れるという形で実装できてたらよかったです。
なお、映画の時間としてはゲームパートがあったりしたのではっきりしたことが言えないのですが、おおむね2時間くらいだったかと思います。
・中断ポイントがわかりにくくて、区切っての鑑賞が難しかったです。オートセーブを信じて区切りが良さそうなところで中断しても、翌日再開するとだいぶ前のシーンから(シーンも飛ばせない)という感じになっちゃって、映画全体の長さがわからない点も手伝ってこれも小さな不便さでした。
・観客モードで視点が強制的に変わりすぎるの少し不自由でした。劇中は自分の位置はシーンごとに固定されており、頭を動かしてみたい場所を見る感じなのですが、シーン内で立ち位置が強制的に変わることがよくあります。これにより、みたい部分をじっくり眺めていても突然視点が変わって見ていたものがなくなることがよくありました。突然視点が変わった時に話し手を探してキョロキョロすることもあり、あまり良い演出には感じませんでした。
・カメラの立ち位置まで自由に変えられたら良かったです。この作品ではコントローラーのスティックを使わなかった(たぶん)のですが、スティックで自分の位置を自由に動かせたらさらに楽しかったかも。
など、改善してほしい点や小さな不満はありますが、新しいコンテンツの形の立ち上げ期という点を考慮するとこれらはとても小さな不満で全体としては大満足というレベルのものでした。
おまけもすごい、ミニゲームとMRギャラリー
ミニゲーム
ガンプラみたいなフィギュアを手に持ってMR空間でブンドドするゲームがついています。
VRアプリに詳しい人に伝わる言い方だとシューティースカイ:オーバードライブみたいな感じですね!
どちらも手に持った自機を動かして敵の攻撃をかわしながら攻撃するという体感型シューティングです。
こちらはガンダムのバーチャルフィギュアを手に持って、迫り来るジェガンの大群を迎え撃ってるところです。
敵は現実のお部屋に開いた異空間の穴から侵入してきます。
敵の攻撃をかわしながらこちらが攻撃するとなるとかなりの全身運動になり、Quest3の発熱効果も手伝ってけっこう汗だくになっちゃいます。
画像は加工しているのでぼやぼやですが、実際はモビルスーツのモデリングもかなり良くて、手に持って眺めるだけでもかなり楽しいです。
MRなので自分の部屋の中でプラモデルが戦ってるようなイメージになっていました。
本編に出てこない人気MS(MA)も使えるので、ファンにとってはかなり嬉しいモードでした。
ただ、ぶっちゃけで言えば私はMRの演出にあまり面白さを感じていないので、現実との融合のMRではなくて、ガンダムの世界に没入するVRモードがあったらさらに良かったかも。
MRって日本の住宅事情にあまり向いてない遊びの気がしちゃうんですよね…
ぐわーって広くて天井も高めでおしゃれなリビングがあればMRもたのしいって思えるんでしょうが、その環境を手に入れている日本人は少数ですよね?たぶん。
MRギャラリー
現実のお部屋にゲートができて、見たいモビルスーツを選択してからそのゲートをくぐればモビルスーツのドックでモビルスーツを実物大で鑑賞できるという神モードもついていました。
モビルスーツの足元から見上げたり、モビルスーツの頭の方から見下ろしたりして、モビルスーツの大きさを実感することに特化したモードです。
残念ならが自由に歩き回って観察という感じではなく、決まったいくつかのポイントで視点を動かしながらの観察になります。
これこそスティックで自由に動き回っての観察だったら最高だったのですが…
新モビルスーツやマニアックなモビルスーツの実際の大きさを感じながら観察できるので、このためだけにでも手元に残しておきたいアプリですね。
今後つぎつぎと出てくるであろうVR映画には、こういうVR(MR)ギャラリーをぜひ当たり前のように実装してほしいですね!
立体的に見る設定資料集という感じでここだけでもお値段分の価値があると感じました。
このアプリを十分に楽しむために
ほとんど歩き回らずに操作して楽しめるVRアプリも多いのですが、このアプリに関してはある程度自由に歩き回れるスペースがあった方が楽しそうでした。
MRギャラリーも3畳くらいのスペースだとゲートを潜ってドックに入るということ自体がギリギリだったので、自由に動ける6畳くらいのスペースはあった方が良さそうでした。
椅子に座っての操作や、その場に立ってのプレイを期待している方はご注意を。
まとめ
VR映画はいままでの映画と違った見せ方でストーリーを体験させる、画期的な表現手法だと感じました。
無名のタイトルにお金を出してVR映画アプリを買うかと言われると、まだまだそのハードルは高いかもしれません。
しかし、今回のガンダムのような有名コンテンツがリリースされると興味を持つ人も多いでしょうし、これをきっかけにVR映画の魅力に気づく人もたくさん出てくると思います。
こういう有名コンテンツがVR映画という新しいジャンルの開拓をしてくれるのは、とてもありがたいことですね。
本気のVR映画と、単体でも商品になりそうなミニゲームやMRギャラリーで2,800円(税込)というお値段の安さが心配になりましたが、ガンダムなので関連商品の売り上げも期待しての展開でしょうね。
主人公機であるデルタザインのプラモデル発売が発表された時、私は未プレイだったので「へぇ〜」だったんですが、プレイした後だと期待に愛着がわいていて「プラモデルも欲しい!」になっちゃいましたもん。
VRを体験するとそこで触れたものへの愛着がかなり上がるので、関連商品を購入させる方法としてはすごく良いのかもしれません。
現時点ではVR映画はCGなので、現実の役者さんほどの表現力はありません。
ただ、ガンダムのようなアニメ系コンテンツ、メカ系コンテンツとは大変相性が良いと感じました。
VRの大きな没入感が表現力不足を補っており、普通の映画とは単純比較できない別コンテンツとして大きな魅力がありました。
今回の「機動戦士ガンダム: 銀灰の幻影」が商業的に成功するかどうかが今後のVR映画の発展にかかっていると思うのですが、VR映画の魅力を十分に伝えることができる作品には仕上がっていると思いました。
VRの音楽ライブなども当たり前になってきているので、VR映画は音楽系作品との親和性も高いと思います。
メカ+音楽ライブといえばマクロスシリーズですよね…
次のVR映画はマクロスシリーズとかどうですかね??
楽しみにしています!
ご紹介した機動戦士ガンダム: 銀灰の幻影は新発売の廉価版VRゴーグルMeta Quest3Sにも対応しています。
Meta Quest3Sについて詳しく書いた記事がこちら。