フィンランドの片田舎でくすぶっていた若者メタラーの奮闘劇を描いたコメディー映画の続編『ヘヴィ・トリップII 俺たち北欧メタル危機一発!』が全国公開されます。
前作で最後には警察につかまりながらも「伝説のステージ」をやり遂げたバンド「インペイルド・レクタム」がまたも登場、前作にも増して常識外れのモラル崩壊を見せながらも、メタラーならではの熱いスピリッツを解き放ちます。
そのドタバタ劇の裏には、スタイルの形骸化というヘヴィ・メタル音楽の指摘されがちな課題、そして商業主義の侵略という「メタラーが最も忌み嫌う」傾向と闘う若者たちの生き生きした表情が見られ、筋金入りのメタラーであれば爆笑と号泣なしでは見られない、強烈なストーリーであります!
映画『ヘヴィ・トリップII 俺たち北欧メタル危機一発!』概要
作品情報
田舎のメタルバンドが巨大メタルフェスへの出場を目指して繰り広げる珍道中を描いた、2019年公開のフィンランド映画「ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!」の続編。
監督のユーソ・ラーティオ、ユッカ・ビドゥグレンのコンビ、そしてメインキャストであるヨハンネス・ホロパイネン、マックス・オバスカ、サムリ・ヤスキーオ、チケ・オハンウェの4人は本作でも健在。さらに日本のメタルダンスユニット「BABYMETAL」の面々もある意味テーマに絡む重要な役柄でカメオ出演しています。
一方、フィンランドのメタルバンド「MORS SUBITA」のミカ・ラマサーリが前作に引き続き劇中音楽を手がけ、スウェーデンのオカルトロックバンド「YEAR OF THE GOAT」が劇伴を担当と、本格的メタルサウンドも楽しめるハードコアなメタル映画であります。
あらすじ
ライブ直後に逮捕され、現在は服役中のメタルバンド「インペイルド・レクタム」のメンバーたち。
ある日彼らのもとへ超商業主義のプロデューサーが面会に来場、ドイツで話題のメタルフェス「ヴァッケン・オープン・エア」への出演をオファーされますが、服役中というハンデと準備不足、さらにイベントの過剰な商業主義という風潮を懸念し彼らは一時辞退します。
ところがその矢先、ギター担当であるロットヴォネンの父が病に倒れ、実家を奪われる危機に。彼の家にはバンドのスタジオもあるため、メンバーは脱獄を決意しフェス出場への一歩を踏み出します。
しかしボーカルのトゥロが一方的に「商業主義」に飲み込まれた様子を見せたことでメンバー間に軋轢が生じ、分裂の危機に陥ってしまうのでした……。
作品詳細
製作:2024年製作(フィンランド映画)
原題:Hevimpi reissu
監督、脚本:ユッカ・ビドゥグレン、ユーソ・ラーティオ
出演:ヨハンネス・ホロパイネン、マックス・オバスカ、サムリ・ヤスキーオ、チケ・オハンウェ、アナトーレ・タウプマン、ヘレン・ビースベッツ、ダービト・ブレディン、JUSSI69、SU-METAL、MOAMETAL、MOMOMETALほか
配給:SPACE SHOWER FILMS
劇場公開日:2024年11月30日(土)より全国順次ロードショー
公式サイト:https://heavytrip-2.com/
「アイデンティティー」を阻害する者たちに立ち向かう若者の姿
この作品の前作『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』は、何の特徴もない田舎の趣味でプレーしていたバンドが、最後に逆境を跳ね返し、逮捕されるも伝説的なステージを成し遂げる顛末を描いた物語でしたが、これに続いて本作は彼らがまたもスターダムに挑戦するというもの。
しかも物語の序盤は、まだ彼らは刑務所にいるというとんでもない設定。そこからまた新たなステージに向けて奮闘するきっかけは、前作ラストで観衆の度肝を抜いた「伝説のステージ」であります。このステージにピンときた有名プロモーターが、彼らをヘヴィ・メタルの超メジャーな野外フェス『ヴァッケン・オープン・エア』に招くというもの。
ちなみにこのフェスは実在のもの。ドイツ北部のシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州ヴァッケンで開催されている一大イベントで、登場するバンドはある意味ヘヴィ・メタルというカテゴリーで”拍”が付くものであります。
しかしそもそも刑務所にいる彼らに対して「上り詰めたければ来い」と無茶な指示をするプロモーター、そしてそれに従いあれこれと策を練るバンド。コメディーとはいえかなりムチャクチャなストーリーではありますが、一方でヘヴィ・メタル発祥時のスピリッツ、経緯を想起させる物語であるといえるでしょう。
この音楽の発祥はロックやパンク、ニューウェーブなどの音楽と同じように、DIY的な発想から発展してきたものでありましたが、80年代のNWOBHやMTVブームに乗ったL.A.メタルブームなどの大きなムーブメントに乗って、一気に商業主義に乗っ取られてしまった、というネガティブな印象を辿ってきた経緯を持つ印象があります。
その意味では本作に登場する「悪徳」プロモーターとその誘惑に、主人公トゥロ率いるインペイルド・レクタムがいかに立ち向かっていくか。メタルファンが「自身が愛する音楽」「守りたいもの」をいかに信じていられるか、そんな核心的な問いを突き付けられるような作品でもあります。
作品としては全くカラーが違うものの、1986年の『クロスロード』やマーク・ウォールバーグが主演を務めた『ロック・スター』を思い出す人も少なくないのではないでしょうか。
BABYMETALが出演!カメオ出演では終わらない登場の意味
また要注目はやはりBABYMETALの登場。彼女らのステージももちろん、ある意味本作の筋に重要な役割を果たす役柄として物語に登場します。
バンドメンバーの一人でこのメイクが非常に印象的なベーシスト・クシュトラックスは筋金入りのメタラー。『ヴァッケン・オープン・エア』の話についても、最初から「最近このイベントは商業主義に寄りがちで…」といきなり毒を吐くほどに、自身のヘヴィ・メタルに対するコンセプトを第一とする、わりに頑固なタイプ。
しかし、彼はBABYMETALのステージを見て一気に心を揺さぶられます。かたくなにオールドスクールのヘヴィ・メタルを崇拝する彼が、自身が予想だにしなかった全く新しいメタルの姿は、彼の世界を一気に崩壊させるほどのパワーを彼女らから見せつけられ、激しく動揺してしまいます。
そんな「悩めるメタラー」と、無邪気な笑顔で人々を魅了するBABYMETALの面々。
そこにはヘヴィ・メタルという音楽を自身の中でかたくなに崇拝し守り続けてきた人々が、全く予想だにしなかったポイントをふっと突かれたような驚きが描かれています。
そもそもヘヴィ・メタルという音楽が産声を上げた際にも、それまで「こんな音楽は聴いたことなかった!」と一気に心迷わされ、そしていつしかファンになったという人も少なくないはず。そう考えるとある意味「人の心を掴む瞬間というものは、いかにして現れるか」という一場面を描いたものでもある、と見ることができるでしょう。その視点から考えると、ヘヴィ・メタルファンにしか分からない物語というわけではなく、自身の中でピュアに愛し守り続けるものがあるという人には、響く物語であるともいえます。
もちろんヘヴィ・メタルファンにはたまらない作品であることは間違いありません。登場人物の一人に「ドッケン」なんて名前の人が出てきたり、「Angel of Death」「Symphony of Destruction」などといったヘヴィ・メタルの名盤タイトルがセリフの意外なところでふっと出てきたりと、とにかく「ヘヴィ・メタル愛」があふれて止まらない作品であることは間違いありません!