映画『シン・デレラ』 誰もが知る童話をシンプルかつ残酷感満載で作り上げた「本当は怖い」物語

レビュー
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子供の童話として最も知られている物語の一つ『シンデレラ』を大胆に改変、残虐な主人公シンデレラの復讐映画『シン・デレラ』が全国公開されます。

童話のセオリーに従い、継母たちにいじめられていた一人の女性。青天の霹靂ともいえる王子様との出会い、そして妖精の力でお城の舞踏会へ。夢のような時を迎えた「シンデレラ」でしたが……。

本作で監督を務めたのは、ホラーを中心に作品を手がけてきたイギリスの女性監督ルイーザ・ウォーレン。作品はビジュアル的、精神的両方においてグロテスク描写が満載。まさにあふれんばかりのホラー愛にまみれた物語が誕生しました。

映画『シン・デレラ』概要

作品情報

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グリム童話の中で最も知られた物語『シンデレラ』を基に、数々の辱めの復讐として残酷な処刑人へと変貌するシンデレラを描いたホラー映画。

『ハングリー 湖畔の謝肉祭』などのホラー映画で知られるルイーザ・ウォーレン監督が作品を手がけました。監督は「くまのプーさん」を題材にしたホラー映画『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』に俳優として出演もしています。

あらすじ

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父の謎の死が常に心のつかえとなり、同時に継母と義理の姉たちからの虐待を受け毎日を苦しんでいる女性、エラ。

その惨めな姿から、いつしか「シンデレラ(シンダ・エラ:灰かぶり姫)」とあだ名をつけられた彼女でしたが、ある日城の王子と対面し城で催される舞踏会に参加するよう求められます。

継母たちの妨害で舞踏会への参加は叶わず悲嘆に暮れていた彼女でしたが、ある日、庭で見つけた不思議な本より偶然魔法使いの妖精・フェアリーゴッドマザーを召還、魔法の力によって舞踏会に参加する願いを果たします。

憧れの王子と対面し喜びの表情を見せるエラ。しかしこれは王子や継母たちによる策略が働いており、舞踏会に参加している人々の前で、彼女は酷い辱めを受けてしまいます。

その屈辱に彼女はフェアリーゴッドマザーに対して復讐を誓い、ガラスの靴を凶器に変え、舞踏会の参加者たちを一人、また一人と残虐な手段で葬り去っていくのでした……。

作品詳細

製作:2024年製作(イギリス・アメリカ合作映画)

原題:Cinderella’s Curse

監督:ルイーザ・ウォーレン

出演:ケリー・ライアン・サンソン、ダニエル・スコット、クリッシー・ウンナ、ローレン・バッドほか

配給:ハーク、S・D・P

劇場公開日:2024年10月25日(金)より全国順次ロードショー

公式サイト:https://hark3.com/archives/2093

童話を「綺麗ごと」と一蹴する荒々しいメッセージ

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グリム童話の中で最も知られている物語の一つが『シンデレラ』という物語。誰もが小さい頃にこのお話を聞かされて育ったのではないでしょうか。

しかしこの物語のもととなったエピソードは民間伝承で、のちに童話としたグリム兄弟やフランスの詩人シャルル・ペローなどの新しい解釈を取り入れたものなど、この話自体のバリエーションとなっているものが世界には無数にあり、幼き頃に聞かされた話はわりに不確かなものであります。

2000年には日本のアニメで『世にも恐ろしいグリム童話』なる物語が発表されており、その結末はとても「夢のあるもの」などといった雰囲気ではない恐ろしさをたたえたもの。ある意味それはリアルを捕らえたものと解釈できるものではないでしょうか。

童話の世界を「そんなうまい話あるわけないじゃないか!?」といわんとばかりに、近年は『プー あくまのクマさん』をはじめ『マッド・ハイジ』『メリーおばさんのひつじ』など童話をベースに恐怖の世界を描いた作品の発表が目立っています。

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本作もそのパワーを炸裂させ、とことんまで人の人生を陥れる継母や城の王子の悪だくみ、その辱めに自分の魂までも賭けて復讐を誓う主人公と、凄惨な処刑現場の光景でドロドロとした人間模様を描いていきます。

その修羅場の映像はかなりグロテスクでありますが、一方で虐げられた主人公の心情には「虐げられる」という問題に対しての現代的な傾向をある意味表している雰囲気もあり、「シンデレラはこうあるべき」などと妙に同情させられ、エンディングには思わず「スカッとする!」という人も多くおられるのではないでしょうか。

ホラー映画の神髄を「これでもか」といわんばかりに発揮

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作品を手がけたルイーザ・ウォーレンは、数多くのホラー作品を手がけてきた女性監督。それだけに作品にはホラーという側面でのこだわりが見えてきます。

主人公の復讐に遭い、恐怖におののいて逃げ回る人たちですが、まさに「B級ホラーの逃げ方」。わざとらしいくらいに不安な表情と絶叫を披露しており、人によっては鼻につく場合もあるかもしれませんが、「あえての演出」という性質が否めません。

その意味では、童話物語による教訓的なメッセージよりは、物語をシンプルに考えホラー好きの人たちにアピールする要素を「これでもか」といわんばかりに詰め込んだ作品であるようにも感じられます。

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一方、本作についてのインタビューでは、グリム童話の原作という部分に強いホラー性を感じていたというウォーレン監督。本作の方向性に関しても、脚本ができた段階でプロデューサー側からの指示により、1976のブライアン・デ・パルマ監督による映画『キャリー』のようなイメージが入り込んでいることを明かしています。(※『朝日新聞デジタル』9月16日記事より)

ちなみに物語で登場するフェアリーゴッドマザーですが、いわゆる童話に登場する、美しく優しげな印象などみじんもなく、どちらかというと「死神」。そのイメージにはクライブ・バーガーの映画『ヘル・レイザー』シリーズを思い出す人も多くいることでしょう。

ビジュアルから物語の根底にあるドロドロした人間の深層心理まで、とにかくホラーならではの表現を追求した本作。『シン・デレラ』という邦題は近年の日本ならではのジョークにも感じられる一方で、作品を眺めると実は妙にしっくりくるよう感じられる、そんな印象をおぼえる物語であります。

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