映画『五香宮の猫』 人と猫が共に生きるあり方を優しい空気感の中で問う

レビュー
(C)2024 Laboratory X, Inc

猫といえば、本サイトの名前『こねこ惑星 クリエイターズブログ』からも、そのテーマはピッタリ!というわけでもありませんが(笑)、今回はその猫をテーマとして、猫と人々の共存の姿よりさまざまな光景、課題を問うたドキュメンタリー映画『五香宮の猫』を紹介します。

作品の舞台は岡山県・牛窓。海に面した穏やかな空気が漂うこの街には「五香宮(ごこうぐう)」と呼ばれる神社があり、近年は多くの野良猫が住み着いたことから「猫神社」とも呼ばれています。

作品を手がけた想田和弘監督は、27年暮らしてきたニューヨークを離れ、妻でプロデューサーの柏木規与子とともに2021年に牛窓に移住。

新入りの住民として地域に飛び込んだ彼らはここでの暮らしの中で猫を巡る問題に巻き込まれたことも。そしてそんな生活の中で高齢化の進む伝統的コミュニティーや、その中心にある五香宮にカメラを向け、美しくゆったりした空気が漂う自然の中で、猫と人間による豊かな光景を映像に収めました。

映画『五香宮の猫』概要

作品情報

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岡山県にある、多くの野良猫が住む街を舞台に、猫と住民たちとの共存の姿をさまざまな視点で追ったドキュメンタリー映画。

『選挙』『精神』などのドキュメンタリーで高い評価を得ている想田和弘監督が、自身が移住した岡山県・牛窓を舞台に繰り広げられる人と猫との暮らしの姿を描きました。

あらすじ

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岡山県に存在する瀬戸内海の港町・牛窓で、古くから親しまれてきた小さな鎮守の社・五香宮。

そこには数十匹の野良猫が住み着き、住民たちとの生活を共にしていることから「猫神社」とも呼ばれています。

彼らは猫好きの住民や来訪者からは喜ばれている一方で、街は糞尿の被害や衛生面の課題に悩まされる側面もあり……。

作品詳細

製作:2024年製作(日本映画)

監督:想田和弘

配給:東風

劇場公開日:2024年10月19日(金)より東京シアター・イメージフォーラム、2024年10月25日(金)より岡山シネマ・クレールほか全国順次ロードショー

公式サイト:https://gokogu-cats.jp/

美しく穏やかな街並みの風景より人間と動物の共存を考える

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瀬戸内の海に面した街並みで、温かい日差しと戯れる猫たち。都会に生きる野良猫であれば、彼らはもっとサバイバル感を前面に出した、殺気立った表情を見せることでしょう。

しかし本作で見られる猫たちは、ゆったりとした時間の流れの中どこか穏やかな表情を見せています。それはおそらく多くの人が「カワイイ!」と言ってしまうであろうものでしょう。

人が近寄ろうとも逃げることもなく、ある猫は自らすり寄って愛らしい態度を見せ、釣り人から魚をねだったり。その空気感は猫と人間それぞれお互いがさまざまな影響を及ぼしているという感覚が合っているようにも感じられます。

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想田和弘監督の作風は、自ら『観察映画』と提唱している独自のスタイル。そこにはいわゆる一般的なドキュメンタリー作品のようなナレーションや、あらかじめ予定されたインタビューシーンはなく、まるで誰かが思い付きで撮影を続けたホームビデオのようでもあります。

その上で映像にストーリー性が見えてくるのは想田監督作品ならではの特徴。ドキュメンタリーでありながら単なる資料で終始してしまうものではなく、映像作品として楽しめる要素をうまく盛り込んでおり「映画である意味」を示すそのポリシーが、本作でもしっかりと反映されています。

たとえば本作でも猫のさまざまな一面を映し出す次の瞬間に、猫など全く写らないところの「人の日常」がふっと現れるなど、この牛窓という場所の姿を非常に立体的に表現していることがわかります。この効果からは、見る側がまるでその場に居合わせているような錯覚さえ覚えさせられることでしょう。

「厳しさ」「現実性」重要なポイントを当事者ならではの視点で合わせて示した物語

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本作は「猫好き」の人にとっても惹かれるものがありますが、ゆったりした雰囲気を見せる半面でさまざまな社会課題を考えさせられるものでもあり、住民と猫との共存の中で越えなければならないさまざまな課題にも言及しています。

たとえば猫たちの糞尿問題に対しどう美化を推進していくか。あるいは野良猫の増加に対する対策として行われる去勢手術など。また牛窓の街自体が抱える高齢化の問題に直結している点をも表しています。

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上記の写真における猫は片目を失っており、単に穏やかな空気の中で猫たちがよい生活を送っているだけではない、「野良猫」として人間の視点からは見えない厳しい人生を送っていることを示しているわけです。

また映像からは単に「隣の家がこのように…」と他人ごとのように光景を見せているのではなく、想田監督自身が新米移住者として自身がこれからどう生きていくか、この猫にまつわる課題を含めた、自身の生き方に対する前向きな意思も感じられ、ドキュメンタリーとしての訴求性も高いものと見ることもできるでしょう。

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