映画『トランスフュージョン』サム・ワーシントンが演じる元軍人の男性が抱えた心の闇

レビュー
(C) 2022 Yensir Holdings Pty Ltd and Stan Entertainment Pty Ltd

今回紹介する作品は、とある事故で幸せな家庭を奪われた男性の苦悩と激動の生活を描いたサスペンスアクション『トランスフュージョン』です。

「トランスフュージョン」とは「注入・輸血」の意を表す言葉。

一つの家庭に訪れた不幸によって激変していく人生。彼らに「注がれた」ものは一体何だったのか?

本作の物語から、その真意を探ってみましょう。

映画『トランスフュージョン』概要

作品情報

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元特殊部隊員の男性が、自身の過去に悩まされながらも家族を守るために社会の闇に身を投じるを描いたアクション映画。

オーストラリアで作家、俳優として活躍するマット・ネイブルが監督・脚本・出演を務めました。主演には『アバター』シリーズのサム・ワーシントンが名を連ねています。

あらすじ

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軍隊の特殊部隊員として活躍する一方、新たな子を宿した愛する妻と幼い息子ビリーとともに幸せな生活を送っていたライアン。

ある日不幸な事故で妻を亡くした彼は、ビリーを育てるため退役を余儀なくされます。

軍人という自身のアイデンティティは定職を持つ場においても障害となり、荒廃した生活を送る日々。ビリーはそんな父のもとで心が荒み、いつしか学校では問題児とされてしまいます。

そんなある日、ライアンは軍隊時代の同僚だったジョニーと再会、裏家業に手を染めている彼から「闇の仕事」に誘われます。

息子との生活を思い一度は断るものの、生活を立て直すには金が必要と考えた彼はその仕事を引き受けます。

ところがその決断は、思わぬ暗雲を引きつけてしまうことになるのでした。

作品情報

製作:2023年製作(オーストラリア映画)

原題:Transfusion

監督:マット・ネイブル

出演:サム・ワーシントン、マット・ネイブル、フィービー・トンキンほか

配給:クロックワークス

劇場公開日:5月10日(金)より全国ロードショー

公式サイト:https://klockworx.com/movies/transfusion/

戦う者のさまざまな「傷の痛み」を多視点で描く

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ウクライナ、イスラエルなどの紛争で世界的な緊張が高まっている近年。国同士の衝突による問題はいやがおうでも人々の関心を誘う大きな焦点ですが、一方で目を向けるべきが「戦地で戦う人たち」。

本作は元特殊部隊員で、元兵士という肩書きが通用しない世と家族の喪失のはざまで悩める一人の男性・ライアンの視線で物語を描いており、どこか新鮮なテーマを提示しているようでもあります。

兵士として活動している間は子を身ごもった妻、そしてあどけなさの残る息子とともに家庭では平穏な生活を送りながら、一方で戦地では緊張の連続。やがて一つのアクシデントを期にライアンの人生は一遍し、暗く沈んだ生活を送っていくわけです。

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自身の不甲斐なさに、非行に走る息子へ注意もできない不甲斐なさ。そんな彼にとって、昔の友人から誘われた「闇の仕事」は、理性的には絶対に拒否すべきであると分かっていながら、ある意味「快楽を享受」させるような方向へと彼を引きずってしまいます。

古くは『ディア・ハンター』や『ランボー』シリーズや、わりと近年の作品では2008年の『ハート・ロッカー』など、いわゆる帰還兵の傷跡をえぐられるような痛々しい映像作品が多く存在しました。

ライアンは家庭に起きた一つの事故がきっかけで軍人を辞めざるを得なかったという事情があり、微妙に「帰還兵」などとは立場が違えど、戦地に赴いたことがのちにどこかの傷として残っているという点では、重なるポイントも見受けられるといえるでしょう。

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また物語はライアンの人生とともに、危うい青年期を過ごす息子ビリーの日常をうまく絡めて描いており、複数の視点でライアンの家族を眺める展開となっています。

そしてさまざまな事件のあとに、家族にはもろもろの傷を残しながら、それでも生きていくという希望のような方向性も見られ、何らかのメッセージ性も物語からは感じられます。

またサム・ワーシントンが演じた、物語の中で激動にもまれるライアンの表情が非常に印象的。彼の演技は感情の激しい変化を大仰に表現するタイプではないですが、見る側には悩めるライアンの感情がダイレクトに伝わってくるようでもあり、地味に見えながらもつい最後まで引き込まれていく作品であるといえるでしょう。

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