映画『ヒットマン』 リチャード・リンクレイター監督ならではの洞察力がうまく発揮されたアクションコメディー

レビュー
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鬼才リチャード・リンクレイター監督とグレン・パウエルのタッグによる、実在の人物をもとにフィクション・ストーリーを構成したアクション映画『ヒットマン』が全国公開されます。

一見、平凡な大学教授がある日突然「偽の殺し屋」に!?

意外な依頼が意外にハマり役。しかし運命は本人の思いもよらない意外な方向へ…まさに「意外」の連続が織りなすちょっぴりブラックなアクションコメディー。

作品を手がけたのは、ファミリー向けコメディーから社会派ドラマ、ドキュメンタリー、さらにはアニメまでと多ジャンルをカバーする才能を発揮する鬼才、リチャード・リンクレイター監督。

そして『ファーストフード・ネイション』、『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』、Netflixのアニメ作品『アポロ10号 1/2: 宇宙時代のアドベンチャー』とリンクレイター監督作品に出演してきたグレン・パウエルが本作で主演を担当、強力なタッグを見せています。

アクションコメディーとはいえそこはリンクレイター監督の作品、単にドキドキし笑うだけでは済まされない見応え十分の秀逸な「映画作品」を届けてくれました。

映画『ヒットマン』概要

作品情報

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普段は大学教授の職に勤しむ傍らで警察への捜査協力のため偽の殺し屋を演じる一人の男性が、殺しを依頼してきた女性と恋に落ちたことから運命を狂わせていく様を描いたアクション・コメディー。1990年代に、同様に警察のおとり捜査に協力していた人物の実話をもとに物語が構成されました。

『6才のボクが、大人になるまで。』『スクール・オブ・ロック』のリチャード・リンクレイター監督が作品を手がけました。

主役を演じたのは『トップガン マーヴェリック』のグレン・パウエル。彼はこれまでもリンクレイター監督作品にもたびたび出演を果たしており、今回もタッグを組んで主演を務めるとともに監督と脚本を手がけました。またヒロイン役を『モービウス』のアドリア・アルホナが務めました。

あらすじ

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ニューオーリンズの大学で心理学と哲学を教えるゲイリー・ジョンソン教授。一方で彼は副業として、盗聴マイクのセッティングなどをおこなう技術スタッフとして地元の警察捜査に協力していました。

ある日職務の不正でおとり捜査となるはずだった警官の一人が職務停止となり、急きょゲイリーはその代役を務める依頼を受けることになります。

捜査に携わる他の警官の心配をよそに、意外にもその才能を発揮してさまざまな「殺し屋」になりきるゲイリーは、その後も偽の殺し屋を演じ、殺人教唆容疑者の捜査に協力していきます。

ところがある時、彼はマディソンという一人の女性と対面することで、その運命を大きく狂わしていきます。

彼女はゲイリーに夫の殺害を依頼してきますが、その境遇から彼は殺人教唆の瞬間をおさえるどころか、思わず同乗し手を差し伸べてしまい、これをきっかけに二人は恋仲にまで進んでしまいます。

そして後日、マディソンの夫は何者かに殺害されたというニュースがゲイリーにも届き……。

作品詳細

製作:2023年製作(アメリカ映画)

原題:Hit Man

監督:リチャード・リンクレイター

出演:グレン・パウエル、アドリア・アルホナ、オースティン・アメリオ、レタ、サンジャイ・ラオ、モリー・バーナード、エバン・ホルツマン、グラレン・ブライアント・バンクスほか

配給:KADOKAWA

劇場公開日:2024年9月13日(金)より全国順次ロードショー

公式サイト:https://hit-man-movie.jp/

リチャード・リンクレイターならではの世界観+タッグの実績を遺憾なく発揮したグレン・パウエル

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大学に務める平凡な一人の男性が、裏では警察の仕事に協力。そしてある日突然「偽殺し屋」となる羽目に。そしてそのことをきっかけにとんでもない運命が彼を待っている……。

最初はとまどいながら始めたことが、なんとなくうまく行っていたものの、あるきっかけでとんでもない展開に進む。これは前述の『スクール・オブ・ロック』でも踏襲された展開であります。

この物語の骨子は、例えばリチャード・リンクレイター監督の『スクール・オブ・ロック』を見た人であれば、かなり似た雰囲気をおぼえることでしょう。そして考えるのは「彼がどのような結末、運命に導かれていくのか?」という疑問。

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一方で本作のラストに待ち構えるのはかなり意外な結末。

予定調和の物語を予想、期待される方からすると「こう終わるの?」と驚くに違いありません。コメディーと決めつけられない、どこかダークな空気感を持つ変化球的なエンディングは、リンクレイター監督ならではの特性の一つを示されているともいえます。

また共同脚本とともに主演を務めたグレン・パウエルの存在感も注目の一つであります。コメディーという性質もその要因でありますが、本作において彼の演技は、どちらかというと大仰であまりリアリティーを追求したものという感じには見られません。

それでもどこかリンクレイター監督が示そうとしている物語のテーマ、メッセージ的な要素をうまく取り込み、演技プランとして全体の出来に反映している様子はうかがえ、これまで効果的なタッグを繰り返してきた、その実績を十分に証明しているといえるでしょう。

コメディー物語の中に見える意味深な社会的テーマ

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非常に広い視野、センスを感じさせる作品をこれまでも多く輩出してきたリチャード・リンクレイター監督。今作もドキドキのアクションとともに笑いを誘う一方で、さまざまな社会課題をも想像させるテーマを感じさせるなど、非常に多様な性格を持った作品の発表となっています。

本作のモデルとなったのは、地方検事局で働きながら、講師として地元のコミュニティカレッジで心理学などを教える一方1990年代に警察の捜査に協力、偽物の「殺し屋」としておとり捜査に参加し70件以上の事件解決に尽力した実在の人物ゲイリー・ジョンソン。

彼をモデルとして、その事件の経緯を掲載した雑誌「テキサス・マンスリー」の記事に綴られた内容をもとに物語が構成されました。

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ただし事件解決、警察への協力という内容にとどまらないテーマが本作では描かれており、「ジョンソンの実績に対する賞賛」というポイントとは異なる視点をテーマとして描かれているであろうことに注意すべきであるといえます。

物語からは「おとり捜査」の正当性、及び危険性などこの行為がさまざまな危惧を持った行為であることを示されるとともに、その存在意義などをふっと考えさせられます

単に「事件が解決した」という結果はあるものの、おとり捜査は本当に「偉業」といわれるものなのだろうか?またその捜査行為に謁見の恐れはないだろうか?さまざまに引っかかるそのポイントからは、リンクレイター監督ならではの深い視点が遺憾なく発揮されていることを物語っています。

また「殺人教唆」の現場が出会い、というきっかけで出会った二人の恋物語にも注目です。

ラストシーンにおいて、ジョンソンとマディソンは「二人の出会いのきっかけ」を訪ねられ、その答えを事件の経緯も知らない人たちに説明に答えることにとまどい、嘘をつくという展開が見られます。

このパートは、マッチング・アプリなどの出会いが一般化した現在において、どこか不自然な出会いが普通となっている、現代におけるボーイ・ミーツ・ガールの実情を意味深に示しているようでもあります。

これら諸々のポイントは、作品を単にジャンル映画として終わらせない、さまざまな考えを想起させるものであるといえるでしょう。

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