映画『デュオ 1/2のピアニスト』 実在のピアニストをモチーフに「固定観念の打破」を描く

レビュー
(C)2024 / JERICO - ONE WORLD FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 3 CINEMA

実在するフランスの双子ピアニストをモチーフとして、夢を追いかけ挫折しながらも新たな道を切り開いていく二人の女性の姿を描いたドラマ『デュオ 1/2のピアニスト』が全国公開されました。

ピアノ、音楽を通して若者たちが苦難を乗り越えていく姿を追ったこの物語。実在の有名なピアニストにスポットを当てたものである一方で、挫折から希望へと向かう伏線の描き方にはフランス映画らしいウィットに富んだ心地よい空気感も見られ、映像のセンスとしても高いものを感じられる作品であります。

映画『デュオ 1/2のピアニスト』概要

作品情報

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難病によって一度は夢を絶たれながらも、一つのきっかけで頭角を現した双子の天才ピアニストたちの苦難と成功を描いたドラマ。実在するフランスの双子ピアニスト、プレネ姉妹をモデルに物語が描かれました。

フレデリック・ポティエ、バランタン・ポティエという二人の親子監督が本作を手がけました。

双子の姉妹をNetflixドラマシリーズ「エミリー、パリへ行く」のカミーユ・ラザ、映画初出演のメラニー・ロベールが演じました。また製作を『コーダ あいのうた』のフィリップ・ルスレが担当しています。

あらすじ

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幼い頃からピアノに情熱を注いできた双子の姉妹、クレールとジャンヌ。二人はピアノによって夢を叶えるべく名門カールスルーエ音楽院に入学します。

それぞれがソリストを目指し、今後のキャリアを左右するコンサートのオーディションに向けて練習に励む日々を送る二人でしたが、ある日のトラブルがきっかけで最初は姉のクレール、そして続いて妹のジャンヌも、両手が不自由になる難病を抱えていることが発覚します。

一時は大きなコンサートイベントでソリストに選ばれるなど、その頭角を現していた二人でしたが、病気が見つかってからはピアノだけでなく両親、そして姉妹の関係にまで不穏な空気が忍び寄ります。

しかしそんな中で、改めてピアノへのかけがえのない思いに気づいた二人は家族に支えられ、再びピアノに向き合い、彼女らならではの唯一無二の音楽を生み出していくのでした。

作品詳細

製作:2024年製作(フランス映画)

原題:Prodigieuses

監督:フレデリック・ポティエ、バランタン・ポティエ

出演:カミーユ・ラザ、メラニー・ロベール、フランク・デュボスク、イザベル・カレ、エリザ・ダウティほか

配給:シンカ・フラッグ

劇場公開日:2025年2月28日(金)より全国順次ロードショー

公式サイト:https://www.flag-pictures.co.jp/duo-pianist/

苦難を乗り越える姿の中で描く「既定路線を打破する思想」

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本作は実在する人物をモチーフとした物語ですが、その経過に伴い見えてくる二人の姉妹の変化、成長という点に深いこだわりが感じられ、製作側の意図を深く読み取ることができます。

このポイントを示す象徴として「丸」という図形を用いている点が印象的に見られます。

要所にメタファーとしてこの「丸」を登場させ、物語の序盤でどこか尖ってギスギスしていた空気感がしなやかな曲線に変わっていく様子に、この「丸」の象徴をダブらせて物語の印象をより鮮烈なものとしています。

また物語の主軸がこの変化により美しく整っていくさまは、本作で音楽をその象徴として描いている「既定路線に縛られる古き体制」への疑問を暗に表し、リベラルな考えを肯定する向きも感じられるところであります。

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一方、ピアノに向けて情熱を注ぐ姿からは、2007年に公開されたドイツの映画『4分間のピアニスト(原題:Vier Minuten)』を思い出す方もおられることでしょう。

「ピアノこそが生きがい、それを人前で奏でることで、自身が一人の個性をもった人間であることをアピールする」二つの作品には、そんな共通点が見られます。

一方で『4分間のピアニスト』は主人公の境遇と、ドイツの悲しき過去の歴史に登場人物たちが苦しみ、最後にハッピーエンドとはならない中で、ピアノの演奏が一人の人間の壁を壊していくさまをシリアスに描いています。

これに対し本作は、主人公たちがしがらみを受けつつも新たな道を模索し突き進み、自身の境遇をポジティブに乗り越えるさまが描かれており、どちらかというとフランスらしいリベラルな雰囲気が感じられるところでもあります。

いずれにせよ、全く異なる作品でありながら、共通しているようにも思われるポイントが両作に感じられるところからも、本作も音楽を通じて普遍的なテーマに言及した向きが感じられるものであります。

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また注目は、フレデリック・ポティエ、バランタン・ポティエという親子監督。

物語では双子の姉妹がピアノをめぐり大きな苦悩を抱える姿が描かれていますが、物語は隠れた点で親子という関係が重要な要素になっているといえます。この双子と親子の関係は、親子である二人のポティエ監督ならではの描き方があったことも想像に難くないところでもあります。

また主人公の二人が身内のタッグというところからも、二人の関係が重なって見えるところでもあり、物語を形作る上で程よい化学反応を見せたことがうかがえるところ。ちなみに監督両人は本作以前にも2013年に『216 mois』という短編作品を両名クレジットで発表しているところからも、なおさら本作の二人の主人公との距離の近さをが感じられるでしょう。

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