映画『僕の中に咲く花火』 登場人物の心情、心の機微を巧みなセンスで描いたドラマ

レビュー
(C)ファイアワークスLLP

思春期を迎えた一人の少年が、不器用で痛々しい日々を送る一方で、周囲の人たちの心に寄り添う姿を描いた青春物語映画『僕の中に咲く花火』が全国公開されました。

一人の少年が「いつかは大切なものがなくなってきえてしまう」その喪失と恐怖に迷い、苦しみながらも、周りの温かい人々に支えられながらその事実を受け入れ、大切な今を生きていこうとする姿を描いた本作。

20歳でJapan Film Festival Los Angeles2022にてBest J. Horror賞を受賞した期待の新人監督、清水友翔が、自身の出身地である自然豊かな岐阜県を舞台に、自身の経験をもとに作品を手掛けました。

プロデューサーは代表作『太秦ライムライト』を監督した落合賢が担当しています。

映画『僕の中に咲く花火』概要

作品情報

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亡き母への思いを抱える少年が、家族や周囲の人々と反発したり、支えられながら喪失感や死への恐怖と対峙したりしながら、時には理解し今を生きていく姿を描いたドラマ。

短編映画『The Soloist』の清水友翔監督が本作で自ら脚本を執筆、長編初監督を務めています。

キャストには『バイオレンスアクション』などの安部伊織、『タイムマシンガール』の葵うたの、『ブルーを笑えるその日まで』の角心菜や、渡辺哲、加藤雅也らが名を連ねています。

あらすじ

岐阜県の田舎町に住む18歳の学生、大倉稔。

彼は小学生の時に母親を亡くして以来、ほぼ祖母と二人きり。10年経った今も母を忘れられずにいる一方で、あまり家に帰りたがらない父と、引きこもりの妹との関係に悩んでいました。

そんな彼は時に死者と交流できると話題の霊媒師と出会うなどの奇妙な好奇心を抱くようになり、それをきっかけに次第に非行へと足を踏み入れてしまいます。

そんな中で、彼はある日街中で東京から帰省してきた年上の女性・朱里と知り合います。ぶっきらぼうな中に優しさを持つ彼女との交流で、心の空白を埋めていく稔。

しかしその一方で彼の前にはまたさまざまな不条理や不幸な事件が起こり、その心に潜んでいた狂気が頭をもたげはじめるのでした。

作品詳細

製作:2025年製作(日本映画)

監督・脚本:清水友翔

出演:安部伊織、葵うたの、角心菜、渡辺哲、加藤雅也、水野千春、佐藤菜奈子、平川貴彬、米本学仁、桜木梨奈、田中遥琉、古澤花捺、國元なつきほか

配給:彩プロ

劇場公開日:2025年8月30日(土)より全国順次ロードショー

公式サイト:https://bokuhana.ayapro.ne.jp/

現代における「家族」を深い心理分析とハイセンスで描いた物語

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本作はとある田舎町に住む家族の心情を、家族に起きた出来事とともに繊細にとらえた物語。テーマ、構成という面で見ると、とてもシンプルな作品であります。

テーマのメインとなるポイントは「生きづらさ」「世代間ギャップ」などと、現代におけるさまざまな留意点を取り上げているところもあり、今という時代の「家族の在り方」「家族としての生き方」などという課題において非常に強い印象をおぼえさせるものであります。特に豊かな自然を背景とした物語だけに、その論点はさらに際立って見えてくるようでもあります。

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そして注目は、その渦中にある家族一人ひとりの心情を非常に丁寧に深掘りしているところにあります。

テーマ、時間的スケールとしては短編映画でも表現できそうな題材でありますが、本作ではそれぞれの立場にある家族それぞれの心情を、一元的でなく複雑に絡むさまざまな思いを分析し留意すべきポイントを特に際立てて表現しているところにその特徴があります。

どちらかというとセリフで全部直接説明しようとせず、人々の微妙な動きや表情、そしてその心情を想像させるさまざまな情景をうまく組み合わせることで、見る側にうまく思いを「想像」させており、そのバランスやタイミングのセンスに、非常に高いセンスが感じられます。

こういったポイントは「言語に頼り過ぎない」という点で、さすが海外のフィルムフェスティバルで高く評価された清水友翔監督であるとも見られるものであります。

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タイトルにある、「僕」の中にある「花火」とはなにか?生きづらさに悩む家族と美しく光る花火の光景の対比は、さまざまな化学反応を見る側の脳裏に起こし、物語の流れに引き込んでいきます。

俳優陣としてはやはり安部伊織、加藤雅也それぞれの表情づくり、演技に光るものが感じられます。胸から飛び出しそうな激情感と、それを口に出さない光景、一方で何気ない日常の風景で見せる「寄り添いあう姿」など、画からイマジネーションが掻き立てられるシーンが満載。

作品全体のスケール感を振り返るとそれほど大きなものを感じさせないものの、その短い時間軸の中で非常に濃密な人間表現を味わうことができます。方向としては陰鬱な序章より非常にポジティブな考えを想起させてくれるような、映画のよさを十二分に堪能できる作品であり、今後さまざまな長編、短編を多く発表されることを期待したくなるような物語であるといえるでしょう。

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