広島国際映画祭2025 レポート|『ワークショップ「映画の鑑賞の仕方」』今日から役立つ“観る技法”

レポート

『ワークショップ「映画の鑑賞の仕方」』

SNSで映画の感想を共有することが当たり前になった昨今、「面白い」「つまらない」といった短い言葉だけで作品体験を表現してしまう傾向が強まっています。しかし本来は「なぜ面白いのか」「どこが自分の心を動かしたのか」を言葉にすることで、映画をより深く味わうことができます。

2025年11月、広島国際映画祭2025で開催されたワークショップ「映画の鑑賞の仕方」は、まさにその“言語化”に焦点を当てたプログラム。今回は5つのレジュメに沿って行われたその内容をレポートにて紹介します。

講師紹介

梶川瑛里(福山大学 メディア・映像学科講師)
福山大学 メディア・映像学科講師。専門はメディア論、文化研究、映像史。名古屋大学大学院人文学研究科博士後期課程を修了。主な論文に「1980年代のアイドル文化:メディア、身体、ジェンダー」(博士論文)。
(「広島国際映画祭 2025」オフィシャルサイトより)

ワークショップについて:作品が語る“声”を拾う姿勢

ワークショップ冒頭で梶川先生がまず示したのは、今回の目的です。

「なぜ映画に心が動かされるのかを、言葉にできるようになること」

この一見シンプルな目標は、映画をただ“感じる”だけでなく、“感じた理由を自覚する”ために重要な視点です。映画をより深く理解し、自分の鑑賞体験を広げるための基盤となる考え方だと説明されました。

映画鑑賞&感想共有:主観を恐れない鑑賞のコツ

ワークショップは、映画祭でも上映された短編映画『折り鶴と蒼い蛙』(監督:chavo)を予備知識なしで鑑賞するところから始まりました。少年の体験と広島の記憶を静かに重ね合わせた作品で、まずは参加者同士で自由に感想を共有します。

対話のポイントとして示されたのは「相手の話をよく聞くこと、話し過ぎないこと」という点です。

例えば近年コミュニケーションの手段としてよく使われるSNSなどでは、一方的な発信が中心になりがちですが、他者の受け取り方を聞くことは、自身の感じ方だけ気づかなかったポイントに気づくきっかけが生まれます。

初対面同士ということもあり参加された方々は、最初は遠慮気味な様子が見られましたが、この後のレクチャーでどのように変化するのかも興味深いところ。

なぜ映画は面白い?:立ち止まりながら深く入る

次に、映画の“面白さ”の根本を考える時間が設けられました。ここでは、映画の始祖・リュミエール兄弟の短編『赤ん坊の食事』を題材に、参加者がどこに注目したかを確認しながら進められました。

画面の中心にいる赤ん坊に最も視線が集まりがちですが、両親の動きや背景に注目したという人もいます。
梶川先生は、映画が「動き」をベースとするダイナミックなメディアであり、そこにこそ独自の魅力が宿ると説明しました。動くものへ自然と注意が向くという人間の感覚そのものが、映画を“面白い”と感じさせる要素につながっているという指摘です。

映画の見方:物語を立体化する想像力

続いて、より具体的に「映画をどう見るか」という視点が、この作品をもとに紹介されました。

■ミザンセン(mise-en-scène:フランス語)
これは映画だけではなく、演劇などでも使われる言葉で、具体的には「演出」のことを差します。
画面の中で、
・人物がどこに立っているのか
・背景や小物がどのように配置されているか
・光がどの方向から当たっているか
といった“画面構成そのもの”を指します。

どこに目が向いたのか、その理由を探ることで作品が伝えたい印象や意味が見えてきます。

■編集(カットのつながり)

画面の切り替わりやシーンの連続によって、物語の印象は大きく変わります。
走る人物をさまざまな角度からつなぐ編集で感情が強調されたり、まったく違う画角へ切り替わることで場面転換を強く印象づけたりします。

またほかにも、例えば「人物が走るシーン」や「語り」といった場面でその人物自体の感情のダイナミズムが感じられたりと、映像からは多くの要素が見られることがわかります。

映画作品が持つ情報量は非常に多く、意識して見るだけで「何となく見過ごしていたもの」が急に浮かび上がるのが特徴であり、一度の鑑賞で終わらせてしまうのは、実は惜しいほどに多彩な要素が詰まっているというわけです。

映画鑑賞&感想共有②:作品が“いま”に効く瞬間

レクチャーを踏まえ、再度同じ映画を鑑賞し、感想を共有します。
今度はミザンセンや編集といった視点を持って観ているため、参加者の発言にはより具体的な気づきが増え、議論も活発になった印象です。

同じ作品でも、視点が変わるだけでまったく違う印象を受けることが実感できる時間となりました。

まとめ

今回のワークショップで扱われた内容は基礎的な映画の見方ですが、こうした視点を少し取り入れるだけで、映画の見え方が大きく変わります。
サブスクなどで映像が手軽に楽しめる時代だからこそ、ただ流し見するのではなく、「自分はどこに心を動かされたのか?」を言葉にすることが映画体験を豊かにします。

また、その感性を他者と共有することも、映画をより深く楽しむための大きなヒントになります。
作品を見て「うまく言語化できない」と感じている方ほど、こうした視点を持つことで、新たな映画の楽しみ方が開けるのではないでしょうか。

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