尾道映画祭2024レポート 2|映画『あした』 大林千茱萸、高橋かおりが尾道で作品とともに故・大林宣彦監督との日々を振り返る

レポート

2024年1月12日より3日間(1月12日は前夜祭)に亘り、広島・尾道で映画イベント『尾道映画祭2024』が行われました。

第二回レポートは1995年公開の映画『あした』です。作品は1月14日に上映され、上映後に本作の主演を務めた高橋かおりさん、作品を手掛けた故・大林宣彦監督のご息女で映画作家の大林千茱萸(ちぐみ)さんが登場、撮影当時のエピソードなどを懐かしそうに振り返っていました。

また当日は大林監督の奥様で本作のプロデューサーを務めた大林恭子さんの登壇も予定されていましたが、残念ながら都合によりこの日の登場はかないませんでしたが、お二人はステージで顔を合わせるなり笑顔と喜びで久々の再会を迎えました。

「大きな存在」と感じた大林監督

高橋さんが大林監督の作品に初めて参加したのが、1992年の映画『青春デンデケデケデケ』より。初めて監督と対面したときのことを「存在自体がすごい。撮影の朝には握手をして、ハグをしてくれて『今日もよろしく』って始まったんですが。大きな人だな、というのが印象でした」と懐かしそうに振り返ります。

また、本作の撮影時に俳優陣に対して「(この中の)一人でも欠けたら、この作品は成立しないんだ、と笑顔で語りかけていた」という思い出を回想する高橋さん。

撮影当初はちょうど寒い時期で、現場では役者がベンチコートを脱ぎ着しながら撮影を進めていましたが、進行を考え俳優陣が時々我慢し上着無しで過ごしていたところ、大林監督もそれを察してコートを脱いで現場に向き合っていたことを思い出し「私たちも『寒い』なんて言ってられないなと思いました」と一丸となって撮影を進めていたと語ります。

そんな話を聞きながら千茱萸さんは「そんな30年も前のことをしっかりと覚えていてもらって、私もとても嬉しい」と自分のことのように喜びを言葉にします。

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皆で祈ることの意味を感じさせた撮影エピソード

映画『あした』は大林監督が手掛けた新・尾道三部作の第二作で、難破した船・呼子丸に乗船していた死者より残された家族や恋人たちにある日突然メッセージが発せられ、彼らが最後の対面、別れ、そして“あした”への旅立ちを果たす姿を描いたドラマ。

この日は千茱萸さんより本作の大きなキーポイントである呼子丸が最後に海に沈むシーンについても当時のエピソードが振り返られました。

さまざまな合成映像を駆使して作り上げられ、「映像の魔術師」の名をほしいままにした大林監督の映像作品ですが、呼子丸の沈没シーンでは全く合成を使われず、実際にある船の船底に穴をあけ向島ドックで実際に船を沈めて撮影が行われていたと回想します。

その撮影時、船が沈むところを見ていたという千茱萸さんは、現場で非常に不思議な光景を目撃したことを告白。やり直しがまず不可能なこの沈没シーンを、スタッフの皆が息を殺して祈るように見守る中、船がちょうど水の中に沈み終わった瞬間に場内の街灯がいきなり割れるという怪現象が発生したといいます。

この現象に対して千茱萸さん「(人が困難に向き合ったときに)『祈ってばかりでなにができるというのだ』と思われる人もいるかもしれない。でも『祈る』ということはみんなの気持ちを想う、皆を一つにして忘れない、ということじゃないかと思うんです。だから30年たった今でも『みんなの気持ちが一つになったら、そういうことも起きるんだな』と思ったりします」と当時のことを単なる偶然ではなかったのではないかと思い返します。

そんなエピソードをはじめさまざまな思い出をもたらした本作を改めて見た高橋さんは「この30年は本当にあっという間だと思っていましたが、映画って本当に色褪せないなと思いました。また30年を経て、こうしてこの映画で、またこの場に立たせていただけるなんて、本当に幸せです」と、大林監督と作品への深い感謝の思いとともに、喜びの気持ちを明かしていました。

生きることの厳しさ、そして尊さを示した作品

大林監督が「映像の魔術師」と呼ばれた理由の一つには、現実の世界ではまず見られない常識の域を超えるほどのファンタジックな物語が多く作られたことにもあるといえます。

監督が残した作品には、物語に描かれた光景、シーンに「映画なんだ!だからこそ常識から外れたものだって見えてくる!」と言い切るほどの説得力すら感じられ、まさに「色褪せない」といわれる作品群の魅力となっています。

近年は「過去作の非常識的な部分、非コンプライアンス的な箇所を是正する」といわんばかりの、過去に大ヒットした作品のリメイクも多く見られますが、大林監督の作品にはそのような流れにつけ入る隙すら見えない完成度、普遍性すら感じられます。この日上映された『あした』もまたしかり。高橋さんがこの日「映画って、色褪せないなと思いました」と語られたその思いは、大林監督作品ではなおさら強く感じられることでしょう。

また他の大林監督作品に共通する点でもありますが、『あした』には強いメッセージ性が感じられます。そのメッセージとは「生きる」ということにあります。

難破船で不運の死を遂げた人たちが、残された人たちに最後の別れを告げに来るというこの物語。ありえない再会に戸惑い、中には争い、衝突する人も。その中で高橋さん演じる主人公・法子は、生きることをどこかあきらめている一人の男性にこう叫びます。「生きることをバカにするんじゃないよ!」

どこか現実的ではない、ファンタジックな雰囲気の中で物語は展開していきますが、登場人物それぞれの気持ちは非常に複雑で、現実世界で生きることの厳しさ、難しさを示しているようでもあります。そんな物語の中で、法子が発した一言は見る人を現実の辛さに対して真摯に向き合わせ、ポジティブな方向に向かせる力強さが感じられるものであります。

なにかに絶望したり、あきらめたりと、辛い気持ちになったときにはまさに「あした」を信じこの映画を見てみたくなる、そんな作品であるといえるでしょう。

映画『あした』 概要

あらすじ

小型客船・呼子丸が遭難し、9人の乗客、乗組員全員が消息を絶ってしまった尾道沖。

船が姿を消した3ヵ月後、死んだとされていた9人それぞれの恋人、夫、妻らに、さまざまな形で「今夜午前0時、呼子浜で待っている」というメッセージが届く。

彼らはその約束を信じ、その呼子浜に集まる。そして訪れた午前0時、約束通り海の中から呼子丸は姿を現した。そして……

キャスト

原田法子:高橋かおり
大木貢:林泰文
綿貫ルミ:朱門みず穂
朝倉恵:宝生舞
永尾要治:峰岸徹
唐木隆司:村田雄浩
安田沙由利:椎名ルミ
小沢小百合:洞口依子
笹山哲:田口トモロヲ
山形ケン:小倉久寛
永尾厚子:小林かおり
池之内勝:ベンガル
一ケ瀬布子:根岸季衣
わたし:原田知世
森下美津子:多岐川裕美
金澤澄子:津島恵子
森下薫:井川比佐志
笹山剛:岸部一徳
金澤弥一郎:植木等
高柳淳:柏原収史

スタッフ

監督:大林宣彦
脚色:桂千穂
原作:赤川次郎
製作:出口孝臣 大林恭子 宮下昌幸 芥川保志
プロデューサー:大林恭子 高桑晶子
撮影:坂本典隆
美術:竹中和雄
音楽:學草太郎 岩代太郎
歌:原田知世
録音:安藤徳哉
音響効果:林昌平
照明:秋田富士夫
編集:大林宣彦
監督補:小倉洋二
スクリプター:土居久子
スチール:中尾孝

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