さまざまな物議を醸しながらも、反戦をテーマとして作られた作品として高く評価された1971年公開の映画『ジョニーは戦場へ行った』の4Kリマスター版が全国公開されました。
本作は第一次世界大戦時にて足など多くの器官を失った青年兵士の視点から戦争の闇を描いた物語。戦争が作り出す本当の悲惨さを訴える作品として、今も語り継がれている本作。第二次世界大戦終結80周年を迎える今日において、是非見ておきたいものであるといえる作品であります。
映画『ジョニーは戦場へ行った』概要
作品情報
『ローマの休日』『黒い牡牛』『スパルタカス』といった名作映画の脚本を手掛けたダルトン・トラボが執筆した反戦小説「ジョニーは戦場へ行った」をもとに作られた映画作品。
小説は第二次世界大戦直前の1939年に発表され物議を醸しましたが、ベトナム戦争中の1971年にトランボが自ら脚本・監督を担当し映画化されました。
作品は第24回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリほか三冠に輝き、日本でも1972年度芸術祭大賞を受賞しました。そしてこの度、50年以上の時を経て4Kリマスターが施され、日本初公開となりました。
主演を務めたのは『戦場にかける橋2/クワイ河からの生還』『スペースインベーダー』などのティモシー・ボトムズ。ほかにドナルド・サザーランドなどが名を連ねています。
あらすじ
ある病院で、ジョー(ジョニー)は目を覚まします。
第一次世界大戦下でアメリカの軍隊に志願しヨーロッパ戦線に出征した彼は、ある日砲弾により負傷し目、鼻、口、耳を失ってしまいます。
さらに運び込まれた病院では両腕、両脚も切断され、ベッドの上では胴体にシーツがかけられ、顔にはマスクのような覆いがかけられた状態となってしまいます。
首と頭がわずかに動き、皮膚感覚だけが残った状態のジョー。軍部は彼を実験材料として生かし日々を過ごす中、ジョーは過去を振り返りながら、現在、そして未来にさまざまな想いを巡らせますが…
作品詳細
製作:1971年製作(アメリカ映画)
原題:Johnny Got His Gun
監督:ダルトン・トランボ
出演:ティモシー・ボトムズ キャシー・フィールズ ジェイソン・ロバーズ ダイアン・ヴァーシ ドナルド・サザーランドほか
配給:KADOKAWA
劇場公開日:オリジナル/1971年
4Kリマスター版/2025年8月1日(金)より全国順次ロードショー
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/johnny-nobi4k/
ショッキングで悲壮感溢れる物語が示す「戦争への批判」
第一次大戦時、アメリカの軍歌でも使われた志願兵募集の宣伝文句“Johnny Get Your Gun”という文句。本作の原題”Johnny Got His Gun”はまさしくこの宣伝文句への痛烈な批判を示す、ある意味パロディとしてつけられたものであるといわれています。
このタイトル付けのように、本作はアメリカの国としての理想と、戦いの現場に立たされるものの意志における大きなギャップ、そして理想の中にある矛盾への批判が、痛烈な物語で描かれます。
五体不満足となり皮膚の感覚だけが下界の様子を知る鍵となる現実世界、そして爆撃を受ける前の姿を保ち過去や今、未来を、ときに抽象的な像で描いたジョーの頭の中の世界。物語はこの二つを行き来する格好で描かれており、現実がモノクロ、後者がカラーという明確な画で映像の位置を示します。
カラーの画の多くは、家族や恋人と過ごしていた、ジョーが幸せであった時。爆撃で不自由な体へと受ける直前までのイメージが、色彩に彩られた鮮やかな画で描かれます。一方で手足、視覚、聴覚、嗅覚、話すこと、すべてを奪われ、自分の名を名乗ることも、今どうしたいかも伝えることができない現実。その悲観的なさまをモノクロで描いたその柄は、悲観的な感情を誘い、ジョーを襲ったアクシデントの原因を深く考えさせてくれます。
一方で注意すべきポイントは、「民主主義」などといったマスの思想と、ジョーという存在の生きざまが交差する際に見えるギャップ。特にラストシーンにおけるジョーの行方は、見るものをいたたまれない気持ちにさせ、物語が示す社会批判の意を能動的に考えることを即してくれるような物語となっています。
ベッドに横たわるジョーの姿は、特に患部を映していないながらあまりにもショッキングで、物語が示す叫び、作品が訴えるメッセージを最も強く示した象徴であるともいえます。
ちなみにトランボの小説をもとにした作品として、ロックバンドのメタリカが1988年に発表した「one」があります。この曲はジョーの視点が歌詞のイメージとして描かれており、徐々に激しさを増していく展開と、闇の深さを強くしていく旋律が非常にショッキング。MVでは映画の映像が織り込まれており非常に印象的なイメージを描いています。
また、この曲により、メタリカは当時グラミー賞で最優秀メタル・パフォーマンス部門を受賞。ヘヴィー・メタルというジャンルがグラミー賞のレベルで認められるかどうかの瀬戸際にあったこの時代に、メタリカがこの曲で風穴を開けた格好となったわけです。
この時の出来事に対しMV,つまり「ジョニーは戦場へ行った」の物語の存在感は重要であり、それ自体が深い影響力を持った作品であった、ということを示すものだと考えることができるでしょう。

