映画『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』 現実以上の人の真実とフィクションを超える驚異の現実が交錯する問題作

レビュー

オンラインゲームという仮想現実の世界に存在する人々の姿を追ったドキュメンタリー映画『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』が全国公開されます。

常に「ノンフィクション」「真実」とリアルが求められる、ドキュメンタリーというジャンルの作品。本作もまた「事実」を追い続けるドキュメンタリーであることは間違いありませんが、全編を仮想現実の世界で描いたその映像はかなり異質にも見えながら、ある意味これまでの手法では見えなかった人間の本質を掘り下げているともいえます。

映画『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』概要

作品情報

ほぼ全編をバーチャル空間で撮影、オンラインゲームの仮想世界でプレイヤーたちにインタビューを実施し、その当事者たちの核心に迫るドキュメンタリー。

スイスの第54回ビジョン・デュ・レールで国際批評家連盟賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭2023インターナショナル・コンペティション部門で審査員特別賞、台湾国際ドキュメンタリー映画祭で審査員特別賞を受賞と、高い評価を得ました。

あらすじ

三人のフランス人映画クルーが、オンラインに存在する「架空の島を舞台に繰り広げられるサバイバルゲーム」の「DayZ」に潜入しました。彼らは963時間をゲームの中で過ごし、遭遇したプレイヤーたちの生の声を、アバター越しに聞いていきます。

暴虐の限りを尽くす集団、誰も殺さないことを信条とするグループ、牧師と名乗り他のプレイヤーに信仰を説く人物、静かで落ち着いた環境を求めて長時間をゲーム内で過ごしている者など、彼らはさまざまな人たちと出会います。

そんな出会いの中で映画クルーはオフラインにいる生身の人間の存在を感じ、人間の二面性に直面していきます。そして…

作品詳細

製作:2023年製作(フランス映画)

原題:Knit’s Island

監督、脚本、撮影:エキエム・バルビエ、ギレム・コース、カンタン・ヘルグアルク

配給:パンドラ

劇場公開日:2024年11月30日(土)より全国順次ロードショー

公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/knitsisland/

「仮想現実」だからこそ見える、人の「裏側にある」表情

草原の中、撮影隊が人と遭遇し話をすべく捜索に出るところより物語は始まります。

オンラインゲームを嗜まない人にとっては、まさに異質とも思える世界観。モニター映像越しに見える人々は、話せば普通に受け答えするのに、オンラインという世界ではまるで自分の知らない自分が現れるかのように、人々の隠れた闇のような部分が現れてきます。

衝撃的なのは、「人を殺す」のが好きだと、喜々として話し出す集団。現実の世界ではないから、そしてこれこそがルールだからと、現実の世界ではまずタブーとされるその趣向に驚かされます。ドキュメンタリーという趣旨であるからこそ、その衝撃は更に強いもの。

もし隣にいるおとなしそうな人が、実はこの喜々として喋っていた人物だったら…などと、ある意味ホラー作品とはまた違った恐怖も感じられることでしょう。

一方でこんな世界でも敢えて戦いという行為を拒否する人たち、現実の世界を避け敢えて膨大な時間をこの空間で過ごす者たちなど、非現実だからこそ見えてくる人間の本質が縦横無尽に現れる。本作からはそんな光景が見えてきます。

現実ではなく仮想現実の光景だからこそ見えてくる人々の真実。無表情な人々、あるいはマスクをかぶったものと、とにかく表情が見えないすべての人の姿が不気味に感じられてくることでしょう。

「見せるドキュメンタリー」という側面へのこだわり

「オンラインゲームの中の映像」というアイデアはかなり斬新にも見えますが、作品を手掛けたエキエム・バルビエ監督、カンタン・ヘルグアルク監督はこの作品以前に、同じくゲーム「グランド・セフト・オート」の世界で描いた34分の短編ドキュメンタリー映画『Marlow Drive』を発表しています。

その意味では自身らならではの試行錯誤を繰り返した上での物語づくりを行っており、アイデアの奇抜さだけではない完成度の高さを感じられる作品として仕上がっています。

社会問題的な深いテーマを感じさせる一方で、三人の監督の専攻は造形表現。その意味では見せる、聴かせる点において優れた才能を発揮しているところは、作品よりうなずけるところであります。

人間の裏に見える本質を捉えたゲーム選びもさることながら、ドキュメンタリーとしての見せ方にも高いセンスを感じられる作品であるといえるでしょう。

ラストシーンではふっと「現実世界」の光景が僅かに流れますが、見る側としてはどこか仮想現実と現実の境目が非常に曖昧になるような、奇妙な感覚を覚えます。ゾッとするような感覚に陥る人もいるのではないでしょうか。

ちなみに本作の撮影後半に入った頃に、世界はあのコロナ禍の混乱に陥ったとのこと。そのこと自体をヘルグアルク監督は「奇妙な”鏡”のような効果を感じた」と振り返っています。

「DayZ」は黙示録的な世界観で描かれたゲーム世界ですが、ある意味そのフィクションを超える現実が現れたと回想しているわけですが、逆に考えればオンライン、アバターなどといった仮想現実化が進む未来を、新しい手法で探った作品であるとも見えてくるでしょう。

レビュー映画・アニメ
広告
こねこ惑星 クリエイターズブログ