監督・製作・編集・音楽を一人で手掛けた『Away』で、2019年アヌシー国際アニメーション映画祭でコントルシャン賞を受賞するなど、世界的に高い評価を得て鮮烈な長編デビューを飾ったラトビアのギンツ・ジルバロディス監督によるアニメ映画『Flow』が全国公開されます。
海の底に沈みつつある世界を舞台に、一匹の猫の視点を主軸として展開するこの物語。
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本作は2024年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でプレミア上映を飾り、同年のアヌシー国際アニメーション映画祭では審査員賞、観客賞含む4冠を受賞。さらに2025年アカデミー賞国際長編映画賞ラトビア代表に選出と、世界中の映画祭で多くの注目を浴びています。
映画『Flow』概要
作品情報
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すべてが洪水に飲まれつつある世界で、船上で時には運命に抗いながらも水の流れに身をまかせ漂う一匹の猫と、さまざまな動物たちとの出会いと旅路を描いたドラマ。
一人で完成させ高い評価を得た『Away』のギンツ・ジルバロディス監督が、制作に5年の歳月をかけ多くのスタッフと共に作り上げました。
あらすじ
大洪水に包まれ、文明や街が水の中に消えようとする世界。そんな中で、一匹の猫が今ある居場所を後に旅立ちます。
偶然そばに流れて来たボート。流れにまかせ突き進む中、彼はボートに乗り合わせた動物たちと思わぬ出来事や危機に襲われ続けます。
一方で彼らの中では少しずつ友情のような感情が芽生えはじめ、団結しお互いを助けながらたくましくなっていきます。
そんな中、ボートはさらに予想だにしない事態へと向かっていき……。
作品詳細
製作:2024年製作(ラトビア・フランス・ベルギー合作映画)
原題:Straume
監督:ギンツ・ジルバロディス
配給:ファインフィルムズ
劇場公開日:2025年3月14日(金)より全国順次ロードショー
公式サイト:https://flow-movie.com/
圧倒的迫力の映像美、その奥に見える未来へのメッセージ
とにかく映像の迫力に圧倒されるこの物語。
意志を持った猫の動き、風になびく船の帆、文明を包み込むように流れる水、そこにあふれる波と、そのすべての「動き」のリアリティーには、とにかく目が離せません。
ギンツ・ジルバロディス監督による第一作『Away』もその登場する人物、背景の動きに対して非常に目を奪われる作品でしたが、本作では画のリアリティーが増し、映像作品としての完成度が増した印象であり、その美しさと生き生きした展開は、出来るだけ大きなスクリーンでご覧になることをおススメします。
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一方で主人公の猫と、その周辺に集まっていく動物の動きには特に注目です。それぞれの動物はその特徴をとらえたまんまの動きをするにもかかわらず、物語が展開していくにつれ同時にそのたたずまいの中で人間のような意思を感じさせます。
人という存在はなく会話音もない中で、人間を感じさせるのは廃墟となった文明の跡のみ。そんな中でまるで人間のように生きていく動物たち。動物が人間のように振る舞うアニメ作品は古くから数多く発表されてきましたが、この作品ではある意味地球の運命を引き継ぐように生きている印象もあります。
ジルバロディス監督は自身、日本の宮崎駿監督作品からの影響も自身のバックグラウンドにあることを公言しており、『Away』でもその影響を感じさせるキャラクターやシーンが見られるところがあります。その影響は単に映像的な部分のみにとどまらず、物語の芯となるテーマ、作品に織り込まれたメッセージの深さからも見えてくるものであります。
本作でも「廃れゆく人間文明」の中を生きる動物たちの姿が描かれるわけですが、その映像から見られる力強さや思いのようなもの、そのハプニング毎に生まれてくる情感には、無機質なものを見ているという感覚は生まれてきません。
また敢えて人間を排し、言語などのコミュニケーションを無にして物語を展開させるその意図には、現世の人間社会に対するさまざまな問題を暗に示しているメッセージ性も感じられます。
特に序盤から映し出される水没した世界、そしてラストの意外な展開は、あの『未来少年コナン』を感じさせるところも見えてきます。
ラストシーンのどこか寂し気な雰囲気は、完全にポジティブなイメージという展開には進まないことを示しているようですが、それでも未来の世界に向け前向きな意思を想起させるものとなっていることは、多くの人が感じられることでしょう。